嘘つきピエロは息をしていない
事務所の先輩に、タレントの肩書きを利用して好き放題している連中がいる。
もちろん興味もなければ関わりたくもない。
それでも女を紹介しろとしつこく言われていて、断り続ければ先輩の機嫌を損ねかけない。
――だから君がちょうどよかったんだ。
【これから連れて行きます】
いけ好かない吉川きりで適当に遊んでもらおう。
運転手には行き先は伝えてあったので俺たちが乗り込むとタクシーはすぐに動き始めた。
「今日話せてよかったなぁ」
「そう?」
君は今は熱血部活少女みたいにふるまってるけど。
どうせ、男が好きなんだろ。
勧誘とかいって声かけてるの男ばかりだしね。
「西条くんってもっと遠い人って感じがしてたんだけど。私と同じ、普通の高校生なんだね」
吉川は、なんでもかんでも口に出す。
相手が不快になるとは考えないのだろうか。
「あ! 気を悪くしないでね?」
気づくのが遅い。
言う前に少し考えればわかるだろう。
俺が君と同じだって?
……冗談言うな。
俺のいる世界と君のいる甘っちょろい世界を一緒くたにするな。