嘘つきピエロは息をしていない


 一



「おかえりなさい、きりちゃん」

 玄関で靴を脱いでいるとエプロン姿の和子さんがやってきた。

「ただいま……! 遅くなってごめんなさい」
「いいのよ。高校生にもなると色々と忙しいんでしょ?」
「うーん、まぁ、そうなんだけどね」
「お弁当箱もらっておくわね」

 そう言われ、お弁当の入った小さめの鞄を和子さんに手渡す。

「今日も美味しかった!」
「みんなどんなお弁当持ってきてるのか、見てみたいわ」

 和子さんは今年五十五歳を迎えるベテラン主婦。

 料理の腕はピカイチだ。

「みんなのお弁当?」

 そういえば真琴がタコさんウインナー入ってたなぁ。

「とっても可愛いよ。卵焼きがハートに……」話している途中で気づく。

 和子さんは気にしている。

 比べているんだ。

 自分の作るお弁当が、他の子の持ってくるものと違っているんじゃないかと。

「和子さんの栄養満点お弁当は、いつも真琴から絶賛でね。羨ましがられるよ! 冷凍食品ひとつもないのとか驚かれる」
「そう?」
「うん! いつも本当にありがとう!」
「きりちゃん……」
「着替えてくるねー。あ、今日課題すごく出たんだった。ちょっとご飯までに少しでも片付けてくる!」

 階段をのぼり、自室に入ると、パタンと扉を閉め。

 制服のまま、ベッドに倒れ込んだ。
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