嘘つきピエロは息をしていない


「ここにいたのか」

 縁側で涼んでいると、ナイキくんがお皿とグラスを持ってやってきた。

 打ち上げも終盤。

 ワイワイ楽しいけれど、体力を消耗するなぁ。

 腹筋だけじゃなくてもっと体力つけないと。

「食う?」
「うん! でも、幸せいっぱい胸いっぱいで。お腹いっぱいだな」

 並んでいたお菓子は料理部が差し入れしてくれたものだ。

 竹千代くんは料理部ではマスコットキャラ的扱いみたいで、演劇部の方でもファンは結構いそうに思う。

「胸いっぱい? どこが?」

 ぺたんこな胸に視線が向けられる。

「そこはツッコまないで……!」

 はは、と笑って隣に座るナイキくん。

「あのさ」
「あのね」

 同時、だった。

「お前から言えよ」
「どうぞナイキくんから」

 いつか話してくれたよね。

 ナイキくんは、恋をしたことがあるって。

 あのとき私、平気な顔して笑っていたし、ナイキくんが照れてる顔見てかわいいって言ったよね。

 だけどね。

 ……本当は、胸が痛かった。

 どうしてか、わからなかった。

 今ならわかるよ。

「私……」
「好きだ」

 また、同時に話してしまった。

「クッソ……どうぞって言っておいて話すやつがいるか……?」

 ロダンの考える人みたいなポーズをとるナイキくん。

「……好き?」
「ああ」
「でも、ナイキくん、好きな子いるって」
「それがお前」
「えぇ!?」
「……鈍すぎ。言っとくけど俺、好きでもない女のこと抱き寄せねえよ」

 そう言われて抱きしめられたことを思い出す。

 あのときの温もりは忘れられない。
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