嘘つきピエロは息をしていない

 あっちの部屋は騒がしいのに。

 ここはとても静かだ。

「今度、読ませてくれよ」
「え?」
「ライアーピエロ」

 あれを読んで世界を広げようとした。

 たしかに新しい世界には行けた。

 明るくなれた。

 だけど、自分を狭めていた。

「一色なんだろ。その主人公のモデルは」
「……うん」

 ピエロは、みんなの人気者だった。

 滑稽な芸を披露してバカにされるけれど、いつだって人々を笑わせて幸せにし続けていた。

 たとえ自分が心の中では泣いていても。

 本当はいつも深く底にいた。

 息苦しかった。

 ある日、息をするのをやめた途端に楽になった。

 感情をコントロールすることを覚えた。

「いっちゃんは、本当に小さい頃にみつけた夢を諦めてお医者さんになるの」
「そうか。医者の家計ってのも、大変だな」
「口では『大変でもないよ』『素晴らしい仕事っていうのは親父の背中を見ていたらわかる』って言ってて。きっと本気で目指していることには変わりないんだけど、いっちゃんの笑顔は昔から大人びていた」
「親に人生を決められていることが息苦しかったりプレッシャーだったりするのかもな」

 ピエロは死ぬまで笑ってた。
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