嘘つきピエロは息をしていない
 俺はきっと、昔は、それが嬉しかった。

 毎日出来立てのご飯を作ってくれる。

 温かい風呂に入らせてくれる。

 眠れない夜、俺の傍で、眠ってくれた。

 遠足の弁当はいつもよりずっと早起きして愛情こめて腕をふるってくれたし、運動会では恥ずかしいくらい応援してくれて俺が活躍すれば手を叩いて笑ってくれた。

 そんな母さんが好きだった……と思う。

 もうそんな気持ち忘れてしまった。

 思い出す余裕さえない。

 文章にすればきっとそれを読み返して涙するだろう。

 流す涙が、喜びか悲しみかなんてことは、もうわからない。

 今はただ、親に愛されることを、重く感じている。

 ひとりになりたい。

 自由が欲しい。

 生まれてから一度も手にしたことがない、自由を。

 俺は吉川きりが羨ましい。

 あんなに胸を張って好きだと言えることも、それに時間がかけられることも。

 だからあんな酷い言い方をしてしまったのかもしれない。

「……簡単に言うなよ。俺が欲しい、なんて」

 たとえくれてやろうと思ったところで、俺の意志なんて、あってないようなものだ。
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