嘘つきピエロは息をしていない
「お待たせ」
飲み物を持ってきた母さんは、ノックもせずに部屋に入ってきた。
いつものことだ。
持ってくるのは健康を気づかった手作りのスムージーだったり、冬ならホットミルクだったり、生姜湯だったり。
おやつがあるときは、すべて手作りだ。
市販のものは砂糖が多く含まれているだとか、なにが入っているかわからない、と潔癖になる。
俺が母さんに内緒でファーストフードを買い食いしたことがあるなんて暴露したら、ショックでぶっ倒れてしまうんじゃないだろうか。
「たっくん」
「なに?」
「渡しなさい」
「……ああ」
家に帰るとまず始まるのが――、スマホのチェックだ。
「使う用事、ないわよね?」
「ないよ」
「だったらママが明日の朝まで預かっておくわね」
ふふ、と笑うその奇妙なくらい綺麗な顔面を殴ってやりたい。
スマホは母さんとの連絡ツールでしかない。
中学の頃に同じクラスの女が俺のスマホに連絡先を勝手に入れたときはそいつに嫌がらせのメッセージを送りやがった。
お前、俺のなんなんだよ。
彼女か?
ご主人様か?
「ちょっと長いんじゃない?」
そういって髪に触れてくる。
触んな。
吐き気がする。
「そうかな」
「あら。その眼鏡、まだかけてるの?」
机の上に置いてある丸眼鏡を見て尋ねてくる。
「気に入ってるんだ」
自分を隠すのに、ちょうどいい。
こんな俺を見せることなんてない。
「あんまりお洒落じゃないけど。まぁいいわ。そうだ、今度のお休みに美容院に行きましょうか」
行っておいで、じゃないんだな。
いつものことながら、ついてくる気でいるらしい。