キミだけが知らない想い
私は腹をくくり、歩き始めた。

街灯はあるものの、薄く暗いこの道を歩くのは怖くて堪らない。

足も震えてるのがわかる…

《ヒロ…お願い…来て…》

私は思わず心の声で叫んだ。

優斗では無くて、今ホントに弘夢を求めた。

理由はわからないけど。無意識だったのかもしれない。

用事でって言ってたから来れないと思ってるのかもしれない。

それでも怖さだけが私の背中を襲う。

闇に放たれる街灯の薄暗くて、青白い光は私の頭を無に確実に近づけた。

ふと、いきなりスマホが鳴り出した。びっくりして落としそうになったけど、ディスプレイに表示された名前を見てホッとした。

優斗からだった。

私は急いで電話に出るが、声が震えてるのが自分でもよくわかった。

いきなり怒られたが、優斗の声を聞くと、安心して涙が出てきた。

そして優斗は、電話を切らずに私を励まし続けてくれた。

そして、「美穂!」と呼んでくれた。

私は思わず駆け出して優斗に抱きついた。

さんざん泣いた私を優しく背中を擦ってくれた。

少し、落ち着くと、私の手を繋いで歩き始めてくれた。

歩幅をゆっくりと合わせてくれて。

私はこうなった経緯を話して、あっ君のカッコつけた話もして、あっ君にも澪華ちゃんにもファンクラブ入ってることバレた話もした。

優斗は笑いながらそうか、そうかと聞いてくれた。

そして「とりあえず、篤人明日絞める」と優斗が言うので頷いた。

「私ね、無意識に心のなかでヒロを呼んでたよ」と私が言うと、苦笑いしながら

「俺より、ヒロに来てほしかったか?悪かったな」と優斗は言う。

「違うの。そーゆう意味じゃない」と私が言うと、

「わかってる。けど、今度はちゃんと俺か、ヒロに連絡しろ。いいな?」と優斗は言ってくれる。

私は頷いた。

私たちはゆっくり歩いて帰った。

その間、優斗はずっと私の手を繋いでいてくれた。

家の前に着き、「また明日~」と別れてそれぞれ家に入った。

状況を把握していたらしい、お父さんとお母さんは笑顔で

「おかえりなさい。何も無くて良かったわね。優斗君もかっこ良かったわよ。素敵なカレシね」なんて言う。

んん?どーゆうこと?

私は気になって問い詰めてみた。

そしたら意外な答えが。

優斗の用事というのは、ウチに呼び出されたとのことで。

ウチの親と優斗の親がなんで、私と優斗がそーゆう関係になったのかを問い詰めたらしい。

弘夢と私が両想いだと知っての行動だったとか。

私はそのせいで一人怖い思いしたと?

お父さんとお母さんに少し怒りを覚えた。

「私がどれだけ怖い思いしたと思ってるのよ…」私は独り言のようにいう。

「あら?あなたがヒロ君を呼ばなかったのが悪かったのよ?ヒロ君、心配してたんだからね。一人で帰ってきて、あなたはまだ帰ってないのか?って」と、お母さんは言う。

「…そんなこと…できるはずないでしょう?二人きり何て、何話していいかわからないし、心拍数上がりっぱなしで気を失うわ」と私が言うと、

「あら、そこまで好きならなんで、素直にならないのよ。いつまでも意地はってないでちゃんと向き合いなさいよ!」とお母さんに怒られる。

「母さん、そろそろやめな。暗闇を一人で歩くこと、どれだけ怖かったか、察してやりなさい。優斗君がいてくれてホントに良かったんだよ。それに…思ったより展開早そうなんでしょう?心配しなくてもいいじゃないか」とお父さんはお母さんをなだめてくれた。

「あなた…何にもわかってないわね!優斗君もヒロ君もモテるのよ?グズグズしてたら取られるわよ!」とお母さんは言う。

「お前こそ、何もわかっとらんな。好きになると周りは見えなくなるもんだ。俺もそうだ。お前以外をそんな目で見たことない。今でも変わらず、俺の女はお前一人なんだよ」とお父さんはかっこよく言い切った。

それに照れてるお母さん。

顔を赤くしながら喜んでいるのが見て取れる。

想いあってるっていいな。私もこんな夫婦になりたい

そう思ってしまった。

私は見つめあってる二人に空気読めないふりして

「ご飯まだー?」と言ってしまった。

「すぐに用意するわ」と言ったお母さん、

「着替えてきなさい」とお父さんに言われて、私は部屋に荷物を置くため、階段を登った。

部屋に入り、着替えて降りてきて、手を洗い、リビングには入った。

テーブルには大好きなお母さんの手料理が並べられていた。

私たちは手を合わせて、「いただきまーす」と声を揃えて、食事を始めた。

ウチはこんなにも和やかなのに、優斗の家は重苦しい空気が流れていることなんてこのときは知るよしもなかった。
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