BLUE GIRL
監督やスタッフからのリクエストは優しいバラードだという。
【BLUE GIRL】のメインシーンは涙を流す場面が多いだろうから、そのバッグに流す歌はしんみりとしたバラードが合うのだろう。
「ワンフレーズも思い浮かばなくて」
「ただのスランプ?それとも何か理由があるのか?」
メロディーが止まった室内でユウのホットコーヒーをすする音だけが響く。
「【BLUE GIRL】は救いの物語だ。悲しいフレーズは似合わないと思う。しかし明るすぎるのは制作サイドの要望とは合わない。そうやって色々考えていると、ペンが進まないんだ」
【BLUE GIRL】は海そのものだ。
Ryoが悩む気持ちもよく分かる。
「作りたいものを作れよ」
ユウのアドバイスは彼らしくはあるが、Ryoにとっては少しも参考にならないと思った。
「周りの印象は気にせず、作りたいものを妥協せず作ってみろよ。そうして出来たものに対しておまえ自身が納得して誇りをもてるのであれば、それはもうスタッフを黙らせることができるほどの名曲だろうよ」
不意を突かれたように目を見開いたRyoは起き上がった。
「俺はおまえの歌のファンだから。おまえのことは嫌いだが、おまえの歌は好きだよ」
「ユウ…」
Ryoに対しての励ましの言葉ではあるが、私の胸まで熱くなった。
ずるい。
ユウの考え方と、それに伴う言動こそが世間を惹きつける魅力であり、
きっとRyoはたった今、ユウのことを好きになったに違いない。
「ありがとう」
そう言って疲れた顔を綻ばせたRyoを見て、
私は更に水城優矢を好きになるのだ。