BLUE GIRL

ホールケーキの後は原田さんと食後のお茶を楽しむ。


「子育てのために一度、ヘアメイクの仕事をやめたの。子供が大きくなって10年ぶりに再就職しようと思ったけれど、私の居場所はなくてね。なかなか新しい仕事は見つからず、ヘアメイクとしてではなく別の道を探そうと思っていた時にね。ユウに誘われたの」


「へぇ、偶然にですか?」


「元々うちの常連さんでね。イケメンだなあとは思ってたけど、いつもお店の片隅で静かにご飯を食べてて、その…ちょっと暗い雰囲気をまとってたから、まさか水城優矢だとは気付かなかったのよ。でもすぐに気付けないことは芸能界に疎くなっている証拠で、ヘアメイクとしてのブランクを表してたのだと、今なら分かる。私の仕事は誰よりも流行を先読みしてアレンジしていかなければならないしね」


昨夜話したばかりの原田さんにキャリアウーマンという印象を受けたけれど、子育てのために仕事をお休みするだけの覚悟があったのだ。好きなことをやめて子供に愛情をかけることもまた、彼女らしい生き方なのだろう。



「本当に今の私があるのは、ユウのおかげさ」


「大袈裟な。この店で仕事がないと愚痴っているところを何度も聞いてたからな。ちょうどうちのスタイリストが留学したいと言い出した時だったし、タイミングが良かったんだよ」


「タイミングも運のひとつだと思うんだよね。ユウと羅依ちゃんと、この出逢いに感謝しないとね」


彼女の言葉に私は頷き、マイペースにお茶をすするユウは首を傾げていた。


穏やかに夜が更けていく。

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