BLUE GIRL
「それなら夜景の綺麗なレストランに行こう」
「え?今から?」
私の手を引いて立ち上がったユウは更に痩せて、頰もこけていた。
リョウ役の時の鍛えた体型が健康的で私は好きだけれど、役作りでそうもいかないらしい。
「嘘だよ」
「なんだ…」
「今、決めたことじゃないってこと。今夜おまえと行こうと思って予約している店がある」
「…ちゃんと私のことを考えてくれていたんだね。ユウさん電話だと淡々としているから、少しだけ不安だったよ」
「おまえのこと以外に、誰のことを考えろって言うんだよ。おまえが好きだよ」
優しく髪を撫でられ、長い指で頰をくすぐられる。
身をよじった隙に額に口づけを落とされた。
「愛してるよ、理子」
初めてだ。
初めて、ユウに名前を呼ばれた。
嬉しくて、
背伸びをしてユウの首に手を回す。
これから先はもう"羅依"という名前を名乗ることはないだろう。
『俺と付き合えーーこれは命令だ』
1年前、あなたの優しい命令に従うことで
私は幸せを手に入れた。
強引であっても私の手を引いてくれてありがとう。
海のいない人生であっても、
どんなに辛い道のりだとしても、
私は生きていく。
私の幸せを最後まで願い、
私とユウを繋いでくれた海のためにも
誰よりも幸せになってみせるよ。
【BLUE GIRL】
それは一冊の本に綴られた海の記憶と、
本を取り巻く優しい物語。
【完】