**零れる涙**
少し離れた唇が、私に愛を囁く。


「カンナが、俺の嫁候補でしょ?
カンナ以外を奥さんにしないよ。
朝飯冷めちゃうよ?
それとも、カンナ先に食べちゃおうか?」


そう、妖しくニヤリ、と笑う口元は誰のモノ?

いつもの進くんじゃない。
私はすぐに進から離れ、味噌汁を口にした。



「美味しい……
優しいお母さんの味だ」


私がそう口にした時、君が驚いたように私を見ていた。


「なんで………分かった?
家にはお母さんがいない。
けど、最後に口にした母親の手料理は味噌汁だった。

母親の味を忘れたくない。
俺が最後に口にしたお母さんの味。
どれも違うんだ。
どれも、母さんの味じゃない……」


きつく、唇を噛み締めた進くん。


その表情は泣きそうで、さっきまでの甘い雰囲気から一変した。

「私が、作るよ。

料理は苦手だし、味つけも自信がない。
だけど、、

進くんのことを想いながらお母さんの優しい味に近づきたい………っ」


君と私は、同じ"境遇"の中、生きてるーー。


君と同じ、無くした視力も………

大切な人を無くした切なさもーー。


どれも、みんな同じだった。

「ありがとう、カンナ………っ」



君の声が震えてる。

君の笑顔が、優しくて私は、心が震えた。


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