同居人は恋愛対象外。
「廉!見てこのクラゲフワフワしてて可愛いわよ!」
水族館に来た母さんは子どもの俺なんかよりずっとはしゃいでて、フワフワと上下する小さなクラゲに釘付けになってる。
その笑顔の横顔。
フワッと香る香水の匂い。
小さな手から伝わる温もり。
たった1ヶ月、短い間だったけど母さんにされた事忘れてしまえる程幸せを取り戻せたように思える。
きっとまだ沢山の幸せが待ってる。
「前みたいに仲良くできるようになったのもあの子のおかげね。
えっと…廉と前に一緒に歩いてた女の子、うっかり名前聞くの忘れちゃった。」
「深澤真奈?」
初めて呼ぶ名前にドクンと鼓動が速くなる。
そうか、あいつがいなかったらこうやって母さんと話せてなかったんだよな。
「真奈ちゃんか〜。
……未来の義理の娘候補ね。」
その言葉につまずいてしまった。
「はぁ!?ありえないって、冗談やめて。」
そう否定はしたけど、どこかでそうなればいいのにって願ってる自分も居る。
「真奈ちゃん廉の事大事に思ってくれてるとおもうんだけどな〜。
それに廉は真奈ちゃん…正直言って好きなんでしょ?」
耳元で囁く母さんの声は俺の本当の気持ちを言い当てるから、顔が熱くなるのを感じた。
「違うから。」
「なーんだ、違ったのね。」
暗くてボヤッと見える母さんは拗ねたような表情にも見える。
水族館が暗くて良かった。
このコーナーは照明が暗く俺の表情を母さんに見せなくて済んだ。
「ちょっと疲れちゃったわね、外に出たらお茶でもしよっか。」
小さい手に引かれ水の世界を歩く。