♥バレンタインの奇跡♥
「もしかして、彩乃?」

…っ。


バレないわけないよね…。


観念して、私はゆっくりと顔を上げた。
視線が重なる。
久々に見る、雅人の顔。


「やっぱり彩乃じゃん」

ニッと左の口角を上げ、悪びれもなく目の前で笑う雅人。


…………。


それは、いつも通りの雅人の笑顔だった。


あぁこの人は、私があれからどんな想いで過ごしていたかとか、どんなに辛かったかなんて、きっと気にもしていない。


「彩乃…?あー!あの時のおばさんか」

スッカリ忘れてた~という感じに、女が言う。

ワザとらしい…絶対忘れてるわけないじゃん。
勝ち誇った笑みを浮かべ、こちらを見る。


そんな女の視線を無視し、私はレジを打ち始めた。
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