だったら俺にすれば?~オレ様御曹司と契約結婚~
「あっ、い、いえ、私は後方なので、総務部で事務をしています」
「ふーん。なんだ。事務か。ちょっと地味だね」
「あっ……そうです……か?」
さらに失礼なことを言われてしまったが、テンパっている玲奈は、すぐに否定する言葉が思い浮かばなかった。
ただ、コミュニケーションをとらねばと、必死に言葉を探す。
「えっと……あの、あ、あのですね、でっ、でも、事務も大事な仕事ですからっ……」
ワンテンポ遅れてそう言ったのだが、気がつけばテーブルの話題は変わっていて、最近の流行りの音楽がどうの、夏フェスがどうのと盛り上がっていた。
(ああ、また私、ついていけてない……)
慌てて仲間に入ろうとするものの、気の利いたことなど、なにも思いつかない。
最低限の相槌を打つタイミングですら迷っていると、最終的には、自分が口を挟むと空気が悪くなってしまうのではなどと、不安になってしまう。
それからだんだん口は重くなり、しまいにはだんまりになるという、いつもの流れだ。
「ちょっとお手洗いに……」
合コンが始まって一時間が過ぎた頃、玲奈はバッグを持ったまま、逃げるように席を立っていた。