王子は冒険者になる!



ジョイルの目の力が 本家に目を付けられるのは
早かった。
ステータスを覗き込める「魔眼」と「光の反射」が使えるのだ。
リザマートの血筋に稀に表れる「賢者の瞳」

1か月もたたないうちに養子の話が出て
援助の話が出て、それが恐喝になるのは遅くなかった。
度重なる誘拐未遂に 両親は疲れ果てていた。
幼いジョイルには全くわからないことだったが
両親の愛を受けて、すくすくと順調に育っていた。

物心つく4歳頃、
毎日のように本家の奴らがやってきて
ジョイルをよこせ、と 叫んでいるのだった。

それが、先ほどの 両親とその使者との言い争いだ。

まだ 幼いジョイルは
それが『僕のせい』で 両親を困らせている。
ということはわかるものの、
よく理解はしていなかった。


5歳になるころには、
王家から第二王子の『遊び相手』の打診が舞い降りた。
・・・実質の側近候補である。

そのころから、本家の 勧誘や嫌がらせが 過剰してきた。



「ねぇ、ノービック。
 どうしたら、お父さまも、お母さまも、にこにこしてくれるかなぁ。」

「そうですねぇ。
 ノービックにはわかりかねますが。」

庭で、ボールのようなものをポーンと投げ合っている
執事ノービックと、ジョイル。

にこりと笑う 優しげな初老のノービック。

「そうですねぇ。
 ジョイル坊ちゃんが『本家』に出向いたら
 あの、文句を言ってくる奴らはいなくなるでしょうねぇ。」

「え?!そうなの? 
 お父さまも、お母さまも喜んでくれるかな?」

「えぇ、それはもちろん。」


にこにこ、と笑うノービック。

それにつられて、満面な笑みの ジョイル。

画して、優秀な執事ノービックによって
速やかに『本人の希望』として 本家への養子の書類がまとめ上げられ、
それに旦那様が署名する直前、

旦那様と奥様が・・・事故死。
大きな依頼のため 調合室での作業中での
魔力暴走の爆発に 近くにあった調合品が巻き込まれさらに大爆発。

不幸な事故であった。 と、言われている。


署名はない物の、「旦那様に言われて作っておりました」「ジョイル坊ちゃんの意思も確認済みでございます」という長年仕えてきた 執事ノービックの証言もあり
まだ幼いジョイルは なんの問題もなく 本家リザマート家の養子三男として引き取られた。


その時ジョイルは 五歳。
両親の記憶はあいまいで やさしかった。事故で死んだ。

としかない。

本家で引き取られた後がーーーーひどかったからだ。

当時、本人は「ひどい」こととは思っていなかった。
いつもそばにいてくれたノービックが
「叩かれるのは、坊ちゃんが出来なかったからですよ。」
「ご飯が食べれないのは、マナーが失敗したからですね。」

と、言葉による束縛で
わるいのは ジョイルが『できない悪い子』だから。と 幼いジョイルに植えつけた。
極めつけは
「旦那さまや奥様の事故も・・・ジョイル坊ちゃんが
 悪い子だったから、かもしれませんねぇ。」

という、にこにこ 笑顔のノービックから浴びせられた
心無い 一言。

確実に幼いジョイルの心をえぐった。
ジョイルは、声をあげて泣いた。

どんなに、義兄たちに 殴られても
家庭教師に叩かれても耐えていたジョイル。

声を上げて 泣いた。

その日を境に ジョイルは表情と感情を無意識に静かに封をした。


ジョイルが王宮に『第二王子の遊び相手』として招かれる一年前の出来事である。

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