王子は冒険者になる!

それからの ジョイルはある程度幸せだった。
本人からしたら、であるが

まずは、食事がきちんと 与えられた。

王宮に出向くようになり、血色の悪い不健康そうな少年が
リザマート家の者だと、体裁が悪い。

それに 殴られることも減った。


「何もできない どうしようもないジョイル坊ちゃんが
 王宮で 王子とご一緒できるのも
 旦那様のおかげでございますね。」

父のころからずっとそばにいてくれたノービックもそう言った。
ジョイルは素直に その通りだ。と感じていた。

王宮での勉強は ひと月に2,3回だったものの
王子の周りのモノや 人々を観察するのには十分だった。

義父が王宮の間取りや
人々の様子を「魔眼」で『見て』こい。
と言われても、ただ素直にうなずいていた。

ジョイルが 王宮で失敗していないか、
義父に迷惑をかけていないか、知りたいんだろうと思って
素直に情報を流した。






王宮への勉強会の前には
必ず 義父の所へと呼ばれる。
誰の魔力を「みて」こい、と指示を受けるためだ。

この家に置いてもらっているし、
当たり前のことだと、
ジョイルは信じていた。


「おい、明日は王宮での勉強会だよな?」

「・・・はい。義父様。」

「今回は、あぁ、新しく
 護衛についた騎士の魔力を見て来い。
 どんな魔力なのか、どんな身体能力か・・・」

「わかりました。」

頭を下げる。

義父はちらり、とジョイルをみると
ため息をついた。

「ところで、いつになったら、フランチェスコ第二王子の
 魔力の本質はわかるんだ?
 お前の報告は、不完全 だろ?」

「・・・申し訳ありません。
 ただ・・・その。」

しばらくたっても、隣にいても
フランチェスコ王子の魔力の本質は「読めなかった」
スキルや魔力を見られないように「隠ぺい」の防御魔法がある程度かかっているのはわかるが、その場合=不視可=となり、隠されているのがわかる。しかし王子は違う。
いくら見ても 本質が表示をされないのだ。
義父への報告は 見たままを伝えているのだが。

ばしぃ!

久しぶりに 頬をぶたれて、
思わず体が飛ばされる。

「言い分けるんじゃない。
 魔力が見えないんじゃ、その眼の意味が無かろう!!」

「・・申し訳・・・っ」

旦那様とジョイルの間にすっとノービックが申し訳なさそうに
一礼して入る。

「旦那様。ジョイル坊ちゃんの頬を早急に冷やしませんと・・・ 
 明日は「王宮での勉強会」でございます。」

「あぁ、ノービック。すまんな。
 思わず、な。」

「はい。私からも 坊ちゃんに言っておきましょう。
 ほら、ジョイル坊ちゃん。こちらへ。」

ジョイルはあわてて 立ち上がって、ノービックの後ろに立つようにして
義父に一礼して 部屋を後にする。

父の部屋を出ると、廊下でぐるりと ノービックが振り返って、

ぼすっ!!

と、ジョイルの腹に一発けりを入れた。

「ご、ふっ!!」

「旦那様もまだまだですねぇ。
 顔は後になるからやめろ、と 言ってるのに。
 このように 見えないところを蹴り上げるのが早いのに・・・
 さて、坊ちゃん。
 明日は きっちり「フランチェスコ王子」の魔力を見てきてくれますよね?」

ねぇ?
と優しそうにノービックは微笑んだ。

「・・げほっ。げほっ。
 は、はい。わかってるっ。」

「私だって、本当はこういうことしたくないんですよ?
 坊ちゃんが、きちんと 旦那様の言いつけを 
 できないから、ですよ?」

「・・・うん。ありがとう。ノービック。」

これは、自分のためだ。
痛いのも、自分が悪いから。

その様子を見たノービックは
好々爺のように、「いい子にならないといけませんよねぇ。」
と言いながら、ハンカチでそっと
ジョイルの 義父にぶたれた頬を包んだ。


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