王子は冒険者になる!
俺は、ギュッと手を握る。
だって、モンレ公爵の迫力はヤバいって。
この人本当に『文官』か?
どちらかというと『将軍』っぽいけど。
「ふぅ。だから、
なぜ、僕がセリィローズに優しくするのか?」
「・・・っ。それは、
円滑に・・・婚約を」
ふっ。と鼻で笑う。
「それが、どうした。
セリィローズにその価値があるのか?
ただ、笑って 菓子を差し出してくるだけの女が?」
公爵が黙る。
「ふ。意外だな。モンレ公爵。
父の隣に立つ、あなたは計算や策略に長けていると思っていたが…
娘にはそれを教えてないのか?」
公爵が 一歩前に出る。
「ほしい物や、気に入らないことがあると
部屋にこもると「お父様」がどうにかしてくれる。
という教育方針なのか?
そうすれば、僕がセリィローズに優しくするから、と?」
ふっと、鼻で笑う。
もちろん、嫌味ったらしく。
どうよ。けっこうな、くそガキだろう?
ってか、ごめんな。セリィ。って心の中で謝っとく。
笑顔と、お菓子が似合ってるのに。
モンレ公爵の顔色がどんどん変わる。
「王子っ」
ぐっとモンレ公爵が飛びかかろうとするところを
ドアの所に控えている 騎士ビラットと騎士タイラーが身構えて
剣に手を添える。
おっと、こえぇな ここも。
ちらり、と目くばせをして右手を上げて
モンレ公爵を抑える手を離せ、と指示する。
騎士二人はちょっと迷うようにしたが、
手を放して、タイラーが公爵の隣に立ち ビラットが俺の後ろに立った。
おぉ。
守りのフォーメーションっすね。
俺は、ゆっくりと
目線をモンレ公爵に戻す。
「モンレ公爵は、この婚約をどう思ってる?」
「・・・・恐れながら、
良いご縁だと・・・」
いや、そんな、
苦々しい感じで言われてもさ。
「ふーん?建前はいいからさ。
モンレ公爵側には「フランチェスコ第二王子」はそんなに必要ないだろう?」
俺、別に後ろ盾とかいないし。
そもそも、モンレ公爵のほうが信用も人望もあるし
なにより血筋もいい。
わざわざ『第二王子』を取り込まないといけない理由はないはずだ。
それが兄であるアレッサンド第一王子ならわかる。
魔法量も多いし、優秀でなんだかんだで次の王は、兄だろうから。
「・・・・娘は、セリィローズは
フランチェスコ王子を・・・好いております。」
「・・・・ん?」
「娘の幸せを願うのが
親の務めでしょう。」
モンレ公爵が、俺の顔をじっと見つめて
告げる。
だから、怖いって。
おっさん、目力半端ないって!
俺は嫌だが、娘は愛しているから、希望をかなえたいのか。
親心って複雑だな。
「では、僕では彼女を幸せに出来ない。
・・・破棄の日程や調整、賠償金などは僕のほうで、父には進言する。」
「は?」
「好きなだけじゃぁ、
ダメなことだってある。だろ?」
さすがに、
あの細くて綺麗な指で俺と一緒に『冒険しようぜ!』とは言えないって。
俺の夢は『ドラゴンを使役したい』だし。
って、俺の警護騎士たちも
驚いた表情でこちらを見る。
おいおい、動揺するなよ。
「さがれ、モンレ公爵。」
「お待ちくださいっ!王子!」
モンレ公爵は、俺に詰め寄って、
机をバンッと叩く。
おっと。
ビビるわ!
少し遅れて
騎士ビラットがぐいっと彼を制止する。
肩を捕まえるような形になる。
ちょっと考えてから、
椅子から立つ。
お。やっぱり俺背が低いな。
ってか、モンレ公爵、意外と背が高いな。
騎士ビラットに「よい」と言って
モンレ公爵を解放させる。
俺が公爵の前に、見上げるように立ってみる。