王子は冒険者になる!
俺は、一応 「王子様」なわけよ。
一応、輝くような光を放つ金髪っていうか、
白っていうか、銀っていうか 不思議な髪色 で美しいって有名なわけよ。
で、その髪は肩より少し長いくらいで
ひもで一つにくくっているわけよ。
それを
サントスに借りたハサミで・・・
「ふ、フランっ。何を。」
じょきんっ。
ばさり、と塊が落ちる。
うん。さっぱり。
「あ、サントス、ちょっと
見てみて、整えて。」
ほい、とハサミを兄の従者のサントスに返す。
さすが、兄に仕えているだけあって、表情を変えることなく
賜りました。といって俺の髪を少し切る。
ありがたい。
アレク兄様は悲痛の面持ちで俺を 無言で見つめる。
「終わりました。」
「ありがとう。サントス。」
動けないでいる兄様とサントスを横目に
椅子から立って 自分の髪をささっと集める。
胸ポケットからハンカチを出して そっとその束を乗せる。
「兄様、部屋を少し汚してしまってすいません。
これを、兄様の腹心であるサントス殿に差し上げてください。
兄の・・・闇の力が暴走するようであれば、お使いください。
ハンカチにも、最大限に 僕の魔力を込めております。」
恭しく、ハンカチを差し出して
すっと膝をつく。
仮にも王子である俺がこの臣下の礼をするのはふさわしくない。
だからこそ、
俺の気持ちを 聡明な兄は組んでくれるだろう。
髪に魔力は宿る。俺の力は「光」
兄が もし、力を暴走させることがあったら
この力は役に立つだろう。
「・・・フラン。」
アレク兄様は決意したように、俺を見つめた。
ハンカチと髪の毛の束を受け取り、
兄はそれをサントスに渡す。
「フランチェスコ。確かに受け取った。
お前は今から、ただの「フラン」だ。しかし、私の弟であり
大切な家族だ。それは一生・・・変わらん。
何かあれば、必ず 必ず連絡せよ。」
「はい。」
うやうやしく、返事を返す。
「・・・よし。じゃ、
サントス。君の着替え持ってきて。
ほら、フラン。脱いで! そのまま来たんだろ?
その服、きっと「探索」の魔術かかってんじゃない?」
「え?マジで?」
あわててシャツを脱ぐ。
裏をじぃーーっと目を凝らすと
うっすら 防御の術。
「探索は掛かってない・・・あ、下着?」
はい。ばっちり 探索の術かかってました。防御もな。
えー、マジか。あぶねぇ、このまま逃げてたら捕まってたな。
ズボンを脱いで下着姿になったとこで サントスが下着も含めて着替え一式を持ってきた。
新品ですのでご安心を。
といって持ってこられたが、服が若干大きいのは ご愛嬌だ。
別に、俺がチビってわけじゃないからなっ。
サントスによって速やかに消し炭にされた さっきまでの「俺」。
跡形もなく服が消滅された。
「さすが、仕事が早い。」
くす、と笑う。
そして 袋から耳飾りを取り出して 付ける。
騎士タイラーの変身のひもにヒントを得て 作った・・・というか
魔導師バームス先生に作らせた。
調子のいいこと言ってこっそり作らせたんだけど、
ウルーチェ先生も 何もかも『知って』いたから、
あんなに簡単に 薬草を持っていかせてくれて『インコ』も貸してくれたんだろう。
だから、バームス先生にも ばれているだろうな。
俺が いつか出ていくことを。
でも、あの二人は 絶対に騎士たちに俺のことを話さないと思う。
だって面白いことが好きだからな。
ウルーチェ先生にはお菓子を、
バームス先生にはおいしいお酒を送らなきゃなぁ。
魔力を流すと、一瞬、ぽわん、と光って
めだつ俺の髪色は 若干くすんだ明るめの茶色に変化する。
瞳の色は、よーくみると、銀色ってわかるかなーぐらいだ。
「フランチェスコ王子」の面影はないはず。
まぁ、俺の顔なんて、よくわからんだろ。
珍しい髪の色と、じんわりと まとう光の魔力が目立ってたからなー。
キラキラ 綺麗に自分自身を包んでまさしく「光の王子」って感じだったからな。
顔のつくりの印象は そんなに無いはずだから、
髪色と魔力を抑え込めば、俺とは気づかれないはずだ。
「すごいな。全然フランに見えない。
いや、フランなんだが、印象が・・・」
「ははは。アレク兄様。
この姿を知ってるのは、兄様とサントスだけです。
トップシークレットですね。」
お互い、にこやかに笑う。
*
こうして、兄弟の夜は更けていった。
もちろん、王宮はひっくり返ったように
大騒動になっている、なんて 考える由もなく。