恋のかたち。〜短編集〜
1.幼馴染
勝負
「ねぇ、奏羽は今まで彼女できたことないよね?」
一之瀬あゆ(いちのせあゆ)と馬渡奏羽(まわたりかなう)は、大学のカフェで、向かい合って座っていた。
幼馴染で幼稚園から一緒にいる2人だが、今でもこうしてたまに2人で話をするのだ。
別に友達がいない訳では無い。
何でも話せて楽だからだ。
少なくともあゆはそう思っている。
「ん」
奏羽はかなり無愛想。
あゆはさすがにもう慣れたというか、
これが通常運転というか、
とにかく問題ないのだが、
初対面の人にはどう感じているのだろうといつも不思議だ。
「ということは、勝負はまだついてないよね」
2人は高校1年生の時からどちらが先に恋人ができるかという勝負をしている。
なぜそんなことになったかは、もう覚えていないが、少なくともあゆはくだらないルールだけははっきりと覚えている。
「あれ、まだやってたのか」
「え、やってないの?負けた方はアイスだよ?」
「やってるの俺だけだと思ってたから」
「そんなわけない!…というか、ちゃんと覚えてたんだ」
あゆの顔がほんのりピンクになった。
「でもさ、何で、奏羽は彼女作らないの?」
奏羽はたしかに無愛想だけどイケメンでスポーツも勉強もできる。
だから、そんな奏が告られていないはずがない。
「好きな人がいるから」
「え!そうなの⁉全然知らなかったんだけど、誰⁉」
「ヒント1、いつも俺といる」
「麻美(まみ)ちゃん?」
“麻美ちゃん”は、いつも奏羽のそばにいる。
きっと奏羽のことを狙っているのだろう。
「違う。ヒント2、可愛い」
「んー、麻美ちゃんじゃないならー。あ、琴子(ことこ)じゃない?」
琴子は、高校からのあゆの親友で、大学生になった今でも一緒にいるから、自然と奏羽も話す機会が多い。
「琴子さんじゃないよ。じゃあ最終ヒントね。目の前にいる」
そう言って奏羽はあゆを指さした。
「えっ?」
「ん。ずっと好きだったよ。あゆ」
真剣な目で、かつ、優しい声で。
「え、ちょっと待って…」
「なに?」
「何で?いつから?」
あゆの頭には次から次へと疑問が湧いてくる。
「とりあえず、落ち着いて。深呼吸ね」
「すぅーーーーはぁーーーー」
「いや、意味わかんない」
「返事は?」
「もちろん私も…好きなんだけど…」
「俺があゆを好きになったのはいつかわからないけど、気づいたら、隣にいるのはあゆじゃなきゃ嫌だと思った。だから誰とも付き合わなかった」
「私は…ずっと好きだったから、奏羽が彼女つくるの待ってた。奏羽が彼女作れば諦められると思ってた…」
「勝負は引き分けだね」
普段あまり笑わない奏が少し笑った気がした。