恋のかたち。〜短編集〜
柊羽と相原が付き合って10年が経った。
昨日ふたりは籍を入れたらしい。
そして、今日は結婚式。
空は青かった。
「なぁ、真。結局真の好きな人は誰だったんだ?」
真は、結婚式前、柊羽の控え室に寄っていた。
そろそろ出ようとしたところ、柊羽がそう聞いてきたのだ。
まだ覚えているのか、そんなこと、と真は思った。
そんなの今も昔もこれからも変わることがないかもしれないな。
そう思いながら、答えた。
「お前だよ。柊羽」
「…は?冗談だろ」
柊羽は笑った。
そうだろう。
そう思うだろう。
そんなの、わかっていた。
「マジだよ」
柊羽は何も答えない。
「安心しろ。幸せならそれでいい。別にもう、襲ったりなんかしないよ」
冗談めかしながら言っても柊羽の顔は曇ったまま晴れない。
「俺、実は、そのー、あれ、バイなんだよな。そんで、今気になってる子は会社の女の子なんだ」
気になっている人がいる、というのは嘘だ。
だが、柊羽の顔が少し晴れた気がして、そのまま畳み掛けるようにして言った。
「まぁ、気にすんな。過去のことだし、俺はもう柊羽のこと“ただの幼馴染”としか思ってないから。今まで通りでよろしくな。幸せになれよー」
真は、手をひらひらさせながら柊羽の顔を見ずにその場から立ち去ろうとした。
その時、腕を掴まれた。
「ごめん」
柊羽はバツが悪そうにひとことだけ放った。
見ているこっちが申し訳なくなる。
「柊羽は何も悪くないから謝んな。それより、俺の結婚式の代表スピーチは柊羽やってくれよ」
「もちろんだ」
そう答えた柊羽の顔はすっかり晴れていて、いつもの柊羽だった。
「柊羽。浮気すんなよ?」
真は近くにあった椅子に再度腰掛けた。
「するわけないだろ」
柊羽も椅子に座る。
「そうだな。柊羽ならしないな」
「おう。あ、そうだ──」
2人はそのまま、柊羽が呼ばれるまで、控え室でたわいもない会話を続けていた。