恋のかたち。〜短編集〜
3.同級生
ジャンパー
成瀬桜雪(なるせさゆき)は学校帰り、
駅の外でスマホを触りながらバスを待っていた。
昼間は暑かったけれど、もう秋だ。
夕方になると寒くなる。
桜雪は、今日、羽織るものを持ってきてはいなかったが、駅の中に行くのが面倒で仕方なく外でふるえていた。
─バサッ
ふいに視界が暗くなった。
何かをかけられたようだ。
「そんなとこいたら風邪ひくぞ」
桜雪は声から佐々岡だと推測した。
「佐々岡?」
取ってみるとそこには野球部で隣のクラスの佐々岡汰一(ささおかたいち)がいた。
「おう。相変わらずめんどくさがり屋だな、成瀬は。こんな所にいたら寒いだろ。俺ので悪いけどそれ着とけ」
「悪いよ」
「俺のじゃ嫌か」
「いやそういう訳じゃなくて、佐々岡が風邪ひいちゃう」
「俺は、馬鹿だから大丈夫。お前が明日来なかったら俺が困るんだよ。それじゃあな」
佐々岡は笑ってそう言うと、やはり寒いのか、足早に駅へと向かった。
桜雪は慌てて「ありがとうー!」と叫ぶと佐々岡は手をひらひらさせた。
『お前が来ないと俺が困る』とはどういうことか気になったがそんなこともすぐ忘れた。
佐々岡のジャンパーはとてもあたたかかった。