恋のかたち。〜短編集〜



「もう本当の終わりだねぇ」



8人の3年生だけが残っている部室で有島がしみじみと呟いた。


今日は3年生vs1・2年生の試合だった。
終了後、1・2年生はそのまま練習で、3年生は部室の整理をしていた。

試合の結果は3年生の圧勝。

インハイ予選からはもう2ヶ月が経っていた。
それでもまだ3年生の意地が勝ったのだ。

だが、1・2年生ももうあと3ヶ月もすれば3年生を超えられるだけの力はあると感じた。



「いやぁ、それにしても、本当に柳瀬ちゃんとみっつが付き合うとは俺思ってなかったなぁ」



自分のロッカーを整理する手をとめずに山河が言う。

山河は意外と整理整頓が得意だ。



「だってあれだろ」


「『大輔頑張れーー!!!』だろ」


「そうそう」


「俺あのとき誰の声か一瞬わかんなかったんだよな」


「下の名前で呼び合うヤツらいねーからな」


「もういいでしょ!その話はー!」



決勝の前半は48-33で負けていた。


そして、後半。

最初、満坂は気持ちがやられているように見えた。
そして気づくと叫んでいた。

後半は声が枯れるまで叫んだ。
満坂だけでなくみんなの名前をただひたすら呼んだ。

ただ、満坂だけは、1度“大輔”と呼んでいたらしく、試合終わってから何度もいじられている。



「俺、引退したら柳瀬ちゃん狙おうと思ってたのにぃ」



山河が軽く笑いながら言った。



「私なんかよりいい人この世界にはいっぱいいるって」


「その“私なんか”をみっつは好きになったんだもんねぇ」



ニヤニヤ顔で保科は満坂に絡んだ。



「うるせぇ。手を動かせ手を」


「あ、ひとつ言っておくとだな」



と有島は前置きして、



「決勝前の日。俺たちわざと2人を残して帰ったんだよ」



と言った。



「えっ?」



驚きが口に出た。



「そうそうー。だよね、みっつ?」


「ん。俺が頼んだ」


「えーっと…じゃああの帰ってる時の重苦しかった雰囲気は…」


「タイミング考えてた」


「緊張していたわけじゃ」


「ない」


「そっ、そっかー…」


「みっつのことだから、優勝したら付き合ってとか言ったんでしょっ」


「え、何で」



その通りだ。

“優勝”したら付き合って。と満坂は確かに言った。



「みっつはそう言うと思ってたんだよ」



と山河はケラケラ笑っている。



「なんでだよ」



満坂はうっとうしいというように言ったが顔では嬉しそうだ。



「そりゃあ、3年もいればなあ」


「でも、俺ら負けたよなあ」



そう。決勝は、結局78-77で負けてしまった。
後半だいぶ追いつき、最後は満坂のブザービートだったが、1点足りなかったのだ。


山河と有島が保科のニヤニヤ顔を真似しながら、満坂に絡んだ。



「負けたのに付き合ってるってどうなの?」



とまた得意のニヤニヤ顔で保科が満坂の肩に腕を乗っける。



満坂は「やめろ」と言いながらも楽しそうだ。



「まぁ、いいじゃん!その話は!」



いつまでもわちゃわちゃしていたら、日が暮れてしまう。

もう少しこの空間に浸っていたいが、そうもいかない。



「そうだ。俺らの問題だからな」


「うわー、みっつ情けねぇ」



と山河はケラケラ笑った。
そして周りのみんなも笑い合った。


こんな時間が続いて欲しい。
それは願っても叶うことは無い。
だが、そう心から願った。


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