恋のかたち。〜短編集〜
「満坂帰ろ」
インターハイ決勝の翌日は普通に学校があった。
「ん。」
同じクラスの満坂は一日中浮かない顔をしていた。
「昨日は帰れなかったから」
「おう」
「3年間本当にお疲れ」
「おう。ありがとな」
「いつものところで今日はお疲れ様会だから、たくさん食べよう」
「おう」
「そして、たくさん寝よう」
「ははっ。そうだな」
満坂は笑い、落ち着いてから続けた。
「あーーー。俺勝ちたかったなぁ。なんであんなこと言っちゃったかなあ。」
「え?」
「いやあ、カッコつけて“優勝したら”って言ったから」
「えーっと…そんなことで落ち込んでた?もしかして」
「うん」
私がかけたさっきの言葉は何だったんだ。
「負けたの悔しくないの?!」
「いや、悔しいけど。けど弱小だったチームが県2位ってだいぶすごいと思うよ」
「まぁ、そうか。それが満坂のいい所でもある」
「ん?」
「いや、何でもない」
「俺。ずっと柳瀬のことが好きだったんだ」
唐突な告白に心臓がとまりそうになった。
「バスケ部入って、柳瀬のことみて、恥ずかしながら一目惚れだった。んで、内面を知ってくうちにもっともっと好きになった。そんで今も好き。でも…」
「好きじゃないと最後まで練習付き合ったりしないよ」
私は満坂の告白に言葉を重ねた。
“付き合えないよね”などと言いそうだったからだ。
「え」
満坂は本気で驚いた声を出した。
「柳瀬も俺が好き?」
「うん」
隣を歩く満坂を見上げると、私のことを見下ろしていた満坂と目が合った。
耳が真っ赤になっているのが見えた。
「…なに?」
「いや、嬉しくて」
「あのね、だから…」
私が口ごもっていると満坂が先に口に出した。
「俺と付き合ってください」
「よろしくお願いします?」
「なんで疑問形?はははっ」
満坂の笑いのツボが私にはわからない。
何が面白かったのか。
「なんて言ったらいいのかわからなくて」
「なんでもいいんだよ。紗奈。これからもよろしく」
「うわ。女慣れしてる」
「してねーよ。俺。やなっ紗奈が初めての彼女だから」
「え、信じらんない」
「いや、信じろよ」
あんなにモテモテの満坂が。
女取っかえ引っ変え出来そうなのに。
「今、“女取っかえ引っ変え出来そうなのに”って思っただろ」
「えっ」
「紗奈めっちゃ顔に出てんぞ」
「マジ?」
「ふはははっ。あ、お疲れさん会で報告してもいいか?」
「何で?」
「みんな知ってるから」
「えーと?」
「俺が紗奈を好きだってこと」
「言ってたの?!」
「おう。“いろいろと”協力してもらってたし」
話をしていると“本日貸切”という張り紙がはられている『山河食堂』に辿り着いた。
ここは名前の通り山河の家で、いつもお世話になっている。
「紗奈。手出して」
と言う満坂を見上げてみると相変わらず耳は赤かった。
そしてそのまま私達は手を繋いで、騒がしい声のする暖かい食堂の中へと入って行った。