恋のかたち。〜短編集〜
「あんなこと言って大丈夫かよ」
桃矢は心配そうな顔して言った。
「あ?」
私はまだイライラが収まらない。
「口の悪さ戻ってんぞー」
「あ、ごめん」
桃矢の前だからか、少し気が緩んでしまう。
「俺はいいけどよ」
「で、何が?」
「オブラートには包んでたけど、辞めさせるって」
「辞めたら、その程度だったってことだよ。まぁ、でもあいつらは辞めないと思うぞ」
「そうか?」
「あぁ。私は信じてる」
「そうか。いや、それにしても久しぶりにみたなぁ。爆発した丸山玲」
「うるさい。あんたが私のところに1週間来ないから悪い」
桃矢は、私が間那と付き合っていた1週間、1度も長話をさせてはくれなかった。
「ふぅん。俺不足ね」
見上げて桃矢の顔を見ると、ニヤニヤしていた。
桃矢の顔を見るとき、身長差のせいでわざわざ見上げなければならないことが少し癇に障る。
「だったら何よ」
「別に。いやぁ、でも、こんなに女っぽくなるとはねぇ。中学の時には考えられない成長だな。うん」
「うるさい、もう忘れろ、黒歴史だ」
私は中学時代いわゆる不良だった。
理由は単純で、父親の再婚が嫌だった。
更生したのは桃矢のおかげと言ってもいいだろう。
体を張って助けてくれた。
そして高校についてきてくれた。
そしてもう、再婚に反対などしていない。
新しい母とも仲良くできていると思う。
「そういえば、私はいつあんたのものになった?」
「ん?」
「いや、部室入る時に言っただろ」
『直人!玲は俺のだから。勝手に勘違いすんなよ』
先程、桃矢の言った言葉が脳内に反芻されて、少し照れくさい気もする。
「言ったっけ」
「はぐらかすなよ」
「…玲が泣きそうな顔してたから」
「…そっか。泣きそうな顔してたんだ…」
「幼馴染として。ほっとけないだろ」
「…ありがとう。私は桃矢と居る時がいちばん居心地が良い…ってことが分かったよ」
「えーと、それはつまり?」
「好きかも」
「それは付き合いたいってことで理解していいやつ?」
「いいやつ」
「はぁぁぁ。俺も玲が好きだよ。ずっと前からね。好き。大好き」
並んで廊下を歩いていた桃矢が、急にしゃがみこんで下を向きながら言っている。
「あー、やっと言えたわー。玲は俺の事なんとも思ってないと思ってたからさぁ」
「なんか、まると玲って使い分けるのずるい」
「ふぅん」
桃矢が下から見上げてきた。
いつも見下ろされているからなんだか、くすぐったい。
「何よ」
桃矢はまたニヤニヤしている。
「あれ、前言撤回するわ。もともと諦めさせるための口実だったし。俺は玲がいちばん可愛いと思うよ」
女慣れしているな、コイツ。
「…初めての彼氏は桃矢にしとけば良かったかな」
気づくと口に出していた。
きっと私の顔は相当赤くなっているだろう。
そう思いながら桃矢の顔を見てみると、桃矢も真っ赤に染っていた。
「ん。そういうとこ。好きだわ」
桃矢は立ち上がって、私の頭を優しく撫でた。
好きと自覚したからか、桃矢のいつもの笑顔が少し輝いてみえた気がした。