あなたと私と嘘と愛
マンションに着いたのだ。
「着いたよ。動ける?」
とりあえず頷きシートベルトを外す。
ゆっくりな動作で助手席のドアを開けると優斗が素早く回り込み手を差し伸べてくれた。
その紳士的な優しさに驚くも、自然と手が伸びていく。
「きょ、今日はやけに優しいんだね?」
「病人には優しくしろって、亡くなった恩人の教えだからね」
「それは…」
ありがたい教えだ。
でも困惑する。
思わずその手を掴んでしまったのは無性に誰かにすがりたかったから。
それが天敵の相手でも、こうして気にかけて貰えるのは嬉しい。
やっぱりどこかホッとしてる自分がいた。
「もし夜中に体調が悪化するなら遠慮なく呼んで。念のため今日はリビングのソファーで眠るから。緊急の時はいつでも起こしてくれていいよ」
「…えっ」
そこまでしてくれるの?
大きく驚いたけど、同じ家に誰かがいてくれる。1人じゃないと思えることに今日ほどありがたいと思ったことはない。
聞けば優斗はもう母の病院には戻らないと言った。
「何だが今の君を見てると悠里さんよりも1人にしちゃいけない気がするから」
「それは…」
どういう意味だろう。
もしかして何か感づいてる?
その鋭い眼差しに一瞬たじろいだけど、それからそれ以上のことを聞かれたり言われることはなく、慌ただしかった夜は過ぎていった。