あなたと私と嘘と愛
「言っとくけど距離を置いてるのはあの人も同じだから。むしろ最初に私から目を反らしたのはあの人だと思うけど?」
力強い瞳で優斗を見返した。
「あの人にとって私はそれほど必要な存在とは思えないし、むしろ邪魔な存在かもしれないよ」
「亜香里」
少し怒ったような口調に驚いたけど、瞳の奥がどこか悲しそうに見え、それにまた言葉を無くす。
「それは違う」
だけどすぐに優しい腕が伸びてきた。
急に頭を撫でられた時、強い困惑に襲われて優斗から目が離せなくなる。
「亜香里は勘違いしてる。悠里さんはちゃんと君のことを思ってる。大切にね。
それに俺だって君を非難したいわけじゃない。ましてや説教したいわけでもない」
すーっと温かな手が私の後頭部を撫でた。
「ただ、亜香里に後悔してほしくないだけ」
「…後悔?」
「最後亜香里が自分を責めないように。ちゃんと話せる相手が今近くにいるということ。それがどんなに大切なことなのかに気付いてほしい」
「それってどういう…」
「分からないなら悠里さんに直接聞いたほうがいいよ。それ以上は今の俺には踏み込めない。俺の意思だけで勝手なことはできないから」
その口ぶりに疑問が浮かぶ。
この先に何かあるのだろうか?まるでそんな言い方だ。
だからますます怪訝な顔を向けてしまった。いったい何を言いたいのかよく分からない。
「…なんか変だよ」
「悪い、ちょっと寝不足かもな。俺もけっこう疲れてるかもしれない」
けどそれ以上は深く聞くことができなかった。優斗が私から手を離し、視線も反らしたから。
彼の温もりがそっと息を吐くように離れてく。
…よく分からない。
優斗の視界から完全に私が消えた時、何故か自分らしくない弱々しい声が出た。
「へん、なの。バカみたい」
「……」
「…本当お節介な人…」
「俺もそう思う」
渇いた声に胸がぎゅっとなる。