あなたと私と嘘と愛
まさかの一夜
それはごく自然だった。パズルのピースが一つ一つ埋まっていくように私の気持ちも否定できないものになっていく。
特に特別なことなんてない。
ふと目が合った瞬間だとか。他愛ない言葉を交わした積み重ねだとか。きっとそんなこと。
「亜香里」
名前で呼ばれる度に胸の高鳴りが大きくなるのを隠しきれない。
「ほら貸して」
さりげない優しさに触れたとき、胸がぎゅっとして嬉しくなる。
「ちょっと買いすぎじゃない?」
「そうかな?こんなもんじゃない?」
どしりと重い買い物袋を三つ私から奪った優斗は何故か渋い顔をしている。
何故ならこの量は1日で使うために買ったものだからだ。
「だってすき焼きだよ。しかも今日は真由も来るしパーっとごちそうにしたいじゃない」
あれから1ヶ月が過ぎ、平和な日々が戻ってきた。
とはいいつつ、私の中で変わったことが確実に一つ。
「ああ見てえね、真由って大食いなの。ここだけの話大食いせん主権にも出れるレベルだからね」
「まじで?」
驚きながら話に食いついた優斗に私はどや顔で武勇伝を話す。
(あ、笑った…)
その自然な笑顔に心がざわめく。
悔しいけど胸がときめく。
気の迷いなんかじゃない。優斗に対する思いに気付いた今、さりげないやり取りだけで嬉しさが込み上げる。
一度ぴたりと嵌まってしまった気持ちは簡単に覆えせなくなり、思った以上に難しくなった。