あなたと私と嘘と愛

だから時間ギリギリまで入って大浴場を出た。
この時間だったらもう優斗は寝てるかもしれない。
そんな憶測をし、先程脱いだ衣服をもう一度着ると深呼吸をしてロビーに出た。

けど一歩進んだ瞬間固まった。
寝てると思ったはずの優斗の姿が視界に飛び込んでくる。


「…あ……」

予期せぬ登場に腑抜けた声が出る。
壁に持たれかけてた優斗が私に気付き、無言でこっちを見る。そして静かに近づいてきた。


「…ゆうと…」

せっかく落ち着いたばかりの鼓動が激しく揺れる。
けど動揺する私とは反して優斗は感情の読めない表情で私と静かに向かい合った。

そしてすぐだった。私に穏やかな笑みを向けたのは。

「遅かったね。そんなに温泉が好きなの?」

「…え…」

普通に話しかけられて間抜けな声が出た。そんな私に優斗はやんわり目を細める。そればかりかさらに驚くことを口にする。

「迎えにきた。帰ろう」

そう言って何故かごく自然に手を繋がれた。だからビックリして目を見開く。だって優しすぎるよ。握られて歩き出す姿にさっきまでのギスギスした感じは見られない。

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