あなたと私と嘘と愛
そして至近距離で声がする。
「亜香里はもちろん俺の大事な恋人」
「…え…」
「悠里さんとは離婚する」
やけに落ち着いた優斗の返事があった。ハッとした瞬間優斗の手が私の頭に触れた。そして私が欲しかった言葉をあっさりくれる。
「ちゃんとけじめはつけるから」
「え?」
「このままじゃ駄目なこと、実は前から悠里さんには伝えてた。やっぱりこんな関係はおかしいって。だからちゃんと決着つけるから安心して」
優しい声で言われながら頭を引き寄せられた。ふわり、私の頭は優斗の胸の中に。
「…本当、に?」
「俺があやふやなせいで色々不安にさせてごめん」
ぎゅっときつく抱きすくめられ、目頭が熱くなる。だから優斗の胸に思わずしがみ付いた。それに応えるよう優斗の手が私の背を撫でる。
安心する。やっぱり優斗の腕の中は…
…けど、まだ頭に過るのは…
「あ、あの、でも本当にお母さんとは…」
「してないよ。さっきも言ったけど悠里さんとは夫婦としての営みは一切してない。そもそも最初からそういう契約だった。籍だけ入ってる仮面夫婦みたいなものだから」
「それってどういう…」
驚ろいて目を見開く。
だって衝撃的な発言だ。
(仮面夫婦って…)
「驚かせてごめん。けどそれが悠里さんからの契約条件だから。俺は必要な時だけ夫の役割を果たせばそれでいいって言われてる」
「……」
見開きながら固まった。ますます意味が分からない。
戸惑ったように優斗のほうへと顔を上げると、優斗もまた難しそうな顔付きに、
「けど、正直亜香里にも覚悟してほしいんだ」
「え?」
「真実を知ることによって亜香里にも覚悟を決めて貰わなきゃいけなくなると思う」
意味深な言葉に声が出ない。優斗の手がそっと私の肩に触れ、少し悲しそうに見つめてくる。
「現実を受け止める覚悟」
「……」
「亜香里にもちゃんと理解してもらわなきゃいけない。今後のことも全て」
「それってどういう…」
何かあるのだろうか?
そう思った時、優斗の携帯の着信が鳴った。ビクッとした瞬間優斗がハッとした表情で立ち上がる。