あなたと私と嘘と愛
「あと、さっきの話もなしで」
「え?」
「離婚の話もなしで。そのことは一旦忘れて?優斗は言われた通りあの人の側にいてくれたらいいから」
最後は優斗の顔を見ずに手を振りほどいた。そのまま帰ろうとする私の手を優斗が「ちょっ…」と引き止めようとしたけれど、
「わこちゃんも色々と迷惑かけてごめんなさい。引き続き母のことを宜しくお願いします」
「亜香里さっ…」
それを無視してその場から駆け出した。
病院を出て、タクシーを待っていると背後から勢いよく手を掴まれる。
それが優斗だってことはすぐ分かったけど…、
「亜香里!」
「ごめん、ちょっと一人にさせて…っ」
声を上げ、その手を力よく振りほどこうとした。
「一人になりたいのっ」
ちゃんと考える時間が…
頭を整理する時間が欲しかった。
だから優斗を突き放すよう告げると少しして諦めたように腕の力がゆっくりと緩む。ちょうどそのタイミングでタクシーが到着した。
「…ごめん…」
優斗の深く落ち込んだ声が耳に届く…。乗り込む瞬間謝られたけど、
「整理がついたら連絡して?待ってるから」
全て受け止めるような優しい声に私は小さく頷いた。
心がヒリヒリと痛む。
一瞬泣きそうになるのを堪え、そのままタクシーに乗り込んだ。