あなたと私と嘘と愛

だってこれ…

「お母さ…」

離婚届けだった。それともう一つは婚姻届。
離婚届には母と優斗の名前が書いてあり、すでに判まで押してある。
そして気になったのはもう一つの婚姻届の方。

「証人のとこに名前を書いておいたから。うららにも頼んでね」

知らなかったけど、婚姻届には二人の証人の名前が必要らしい。
だからそこには母の名前と、うららこと、うーちゃんの名前が書いてあったのだ。
信じられない思いで母へ視線を送る。

「その時がきたら二人で出したらいいわ」

「……」

「最後ぐらい母親らしいことしてもバチは当たらないでしょ?
これでもね、あなたの幸せを心から願ってるの。人生本気で好きになれる人なんてほんの一握りしかいないから」

…いい、の?
本当にいいの?

とても穏やかな母の声に感情が揺さぶられる。気付けば胸の中を広がる温かなものが。同時に切なくもぎゅっと締め付けられる。

「色々好き勝手して騒がせたけど、私が人生で本気で愛したのはただ一人。あなたの父親だけよ」

そして母は言う。
母にとってその相手が私の父だったと。

「…お母さ…」

「信じられないかもしれないけど、これだけは覚えといて頂戴ね」

コクリ頷き、そのまま顔が上げられなくなった。

(どうしよう…)

予想外に胸が熱くなる。
そして右目からポロリ。続いて左目からポロリ。次から次へと涙が溢れて止まらなくなった私は何も言えなくなる。今まで押さえ付けていた感情がせり上がる。
< 399 / 471 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop