あなたと私と嘘と愛

じゃあ誰だっけ?と疑問丸出しの顔を向けていると、じっと私を見てたその人がクスッと笑みを漏らす。


「僕ですよ。分からないかな?ほら、いつもお世話になってる坂井です」

「……坂井さん?」


そして彼はかけていたメガネを外した。
人差し指で右顎を抑え、「その節は無理言ってすみません」とジェスチャーを見せてくる。

その仕草、眼鏡を外した素顔を見て私はようやく「あ…」と顔と名前が一致した。


「…もしかして坂井さん?」

「やっと思い出してもらえました?」


メガネ掛けてるから一瞬分からなかったけど、彼は私がバイトしてる歯医者の患者さんだ。
しかも私が付いてる院長の担当でもあり、先週痛みを訴えて飛び込みで来たんだった。


「すぐに気づけなくてすみません。あ…と、歯の痛みはあれからどうですか?」

「おかげさまで痛みは和らいでます。薬も聞いてるし、院長先生の処置も的確だったので」

< 44 / 471 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop