あなたと私と嘘と愛

坂井さんの表情がさらに穏やかなものに変わる。
「嬉しいな」と素直な感想をこぼし、そして私の持つカゴに目を向けた。


「もしかして今からお支払ですか?」

「あ、そうです。ある程度は買い終えたので」

「僕もです。レジに向かおうとして偶然あなたを見掛けたので思わず声を掛けてしまいました」

「そうだったんですね」


話ながら足がレジへと向かう。
結局雑誌は買いそびれてしまったけど、あの見出しで坂井さんの前で買うのも少々気恥ずかしいし、あれはまた今度。

そして私から順々にレジを済ませ店を出ると、偶然にも向かう方向が同じ駅だということが分かる。
だからせっかくだからと、そこまで一緒に行くことにした。


「何だか今日は偶然が続きますね」

「僕としては宝くじに当たった気分です。こんな若くて可愛い子と話せる機会ができて」

「またまた、さっきからお上手ですね。もしかしてお仕事は営業か何かですか?」


あまり詳しくはないが、スムーズな会話といい、人を不快にしない言葉はそんな予感をもたらした。

初めてこんな風に面と向かって話すのにあまりぎこちなくならないし、疲れない。
むしろ好感さえ与えてくれる落ち着いた人。


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