あなたと私と嘘と愛
坂井さんの返答に私は軽く頷いた。
ひとまずは何事もなく安心。
「なら良かったです。他に気になる所はありますか?」
「ないから大丈夫ですよ」
「分かりました。ではもう少しお待ちくださいね」
丁寧に受け答えをして一旦その場から離れた。
そして洗い場の方へ身を寄せて誰にも気付かれない位置で「はぁ…」と深めの深呼吸をした。
緊張したぁ。
やたらかしこまった言い方になっちゃった。落ち着け私。
坂井さんは患者さん。今は仕事中だ。
それを意識し、しっかりとした顔をつくる。
そして院長が来る前にシャキッと姿勢を正すと再び坂井さんの元へ戻り、いつも通りの診察に没頭した。
そして20分後、
「お疲れさまでした。薬を詰め替えたので今から30分は飲食は控えてください」
「分かりました」
治療が終わり、先生がそう言って席を立つと私は再び「お疲れさまでした」と紙のエプロンを外す。
なんだかさっきから見られてる気はしたが、気付いてない素振りで坂井さんから距離をとる。
「ふっ、真面目なんですね」
だけど何故か笑われてしまった。
「えっ」と動きが止まる。
(今なんて…)
思わず目を合わせると、彼の手がふいに私の手を掴み、そっと引き寄せてくる。