あなたと私と嘘と愛
坂井さんとはこの前一緒に行った駅で待ち合わせをしている。
お目当ての駅に着き、電車を降りたところでまずトイレに寄った。
ドキドキする気持ちを一旦落ち着かせたかったのもあるが、その前に自分の顔を見たかったからだ。
そしてごそごそと鞄の中から先ほど無造作に詰め込んだ口紅を取り出した。
玄関を出る前、何故か優斗に呼び止められた。
そしてさりげなくこれを渡されたのだ。
「口元が寂しそうだからよかったらどうぞ」
不意打ちに渡された為、「あ、どうも…」と受けっとしまったけれど、玄関を出たあと不審に思った。
(何でこんなもの…)
けど、その疑問はすぐに晴れる。今思うとこれは母の策略だったのかもしれない。
そもそも優斗がこんなもの持ってる筈がないし、よく見たらその口紅は母がイメージモデルをしている化粧品会社のもの。
きっと彼は母からこれを託されたのだ。
そしてタイミングを見計らい私に渡したのだと。
これを託した母の考えは分からないけれど、彼女のやりそうなことだと納得してため息が出る。