初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
「本当に美しい。ジャスティーヌ嬢のダンスを何度も拝見していますが、あなたのダンスも素晴らしい」
 アントニウスの誉め言葉に、アレクサンドラは赤面しそうになり顔を横に向けた。
「だめです、顔を背けては」
 すぐに指導が入り、アレクサンドラは仕方なく顔を正面に向けた。
「さあ、ターンです」
 組んだ手を持ち上げられ、くるりとオルゴール人形のようにターンする。ドレスの裾がふわりと膨らみ、レースが綺麗な孤を描く。次の瞬間、アントニウスの手がアレクサンドラのウェストをとらえ、回転の余分な動きを吸収してくれる。再び、基本の組みポーズに戻り、すっと足が女性のステップを踏み出す。
 自分の意識しない体の動きに、アレクサンドラは戸惑いを隠せなかった。

(・・・・・・・・お父様の時とは違う・・・・・・。どうして? 自分が女だって意識しなくても、それが当たり前だって気がしてる・・・・・・・・)

「どうしました? 心、ここにあらずですよ」
 一瞬のターンの遅れにアントニウスが声をかけてきた。
「すいません、さすがに少し疲れてしまって・・・・・・」
 アレクサンドラの言葉に、アントニウスは曲の途中でダンスを止めた。
「足が痛いですか? ヒールに慣れていないから・・・・・・」
 アントニウスの言葉に、アレクサンドラは慌てて扉の方を振り向いた。
「大丈夫です。そんなミスは犯しません」
 アントニウスは言うと、アレクサンドラの手をとり、窓辺の椅子へと歩を進めた。
「ダンスは少し休む。何か、静かな曲を・・・・・・」
 アントニウスの指示に従い、ピアニストは曲を変えた。
 それを合図になったのか、お茶とお菓子が運ばれてきた。
「気を使わせてしまいましたね」
 見るからに高価なお菓子に、アントニウスは申し訳なさそうに言った。
「いえ、これくらい。私のデビューの支度をすべてサポートしてくださるのですから」
 アレクサンドラは言うと、視線を窓の外へと走らせた。
 広間の窓からは、母が『無駄に広い』と嘆く庭が適度に手を入れられて広がっていた。
「もしよろしければ、庭を案内していただけませんか?」
 アントニウスの言葉に、アレクサンドラはアントニウスが庭の池の方を見つめていることに気付いた。
「構いませんわ」
 自分でも、よくもまあと感心するくらい、女性言葉も板についてきていた。
 お茶とお菓子を味わった後、アレクサンドラはアントニウスを連れて庭へと向かった。
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