初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
ロベルトの部屋の前には、警護の近衛が二人扉の両脇に控えていた。
近衛はリカルドの姿を見るなり、最敬礼をしてから、ロベルトの部屋の扉をノックする。すると、扉が開いて王太子付き侍従が姿を現した。
「堅苦しくする必要はない、親子の語らいじゃ」
リカルドが言うと、侍従はリカルドのために扉を開きながら『国王陛下のお出ましでございます』と、中に控える侍従に仰々しく伝える。
扉をくぐり、控える侍従達にリカルドが下がるように手で合図すると、侍従長を残し、全員が部屋から下がっていった。
国王と王太子ともなると、親子二人だけで話しをしようとすると、これがまたスムーズには行かない。
リカルドが国王になってから、不必要に細かい王宮での決まり事やエチケットなる物をできる限り廃止してはみた物の、それでもやはり面倒は残る。特に国王と王太子が二人でとなると、国王付き侍従長を頭とする国王派の侍従と王太子付き侍従長を頭とする王太子派侍従という、バカみたいな縦割り官僚社会のおかげで、色々と厄介な問題がでるので、ここで侍従長を追い払うのは得策ではない。
大体、現行の国王派と王太子派の縦割りの侍従組織は、まだエッセンシュタインが一夫多妻制で、皇后をはじめとして、複数の王妃から複数の王子が産まれ、王太子の座を争い、次期国王の座を争うという、血で血を洗う血族の戦いをしていた数百年前に作られた、それぞれの身を護るための決まり事とエチケットから成り立っており、今の一夫一婦制の平和なエッセンシュタインには全く不要の組織体制なのだが、いざこれを解体するとなると、細々とした数百から数千のルールやエチケットに変更を加える必要があるので、さすがのリカルドも根負けして不便さは残るものの、不都合がない程度までの解体で手を打ったのだった。
そういうわけで、とりあえず侍従長は居ても見えないことにして我慢する。なにしろ、この侍従長はリカルドが王太子時代からの侍従長で、やたらと決まり事やエチケットにうるさいので、下手な戦いを挑めば、歩く規則とエチケットのエンサイクロペディアと呼ばれる、この侍従長に足元をすくわれることは言うまでもない。それを考えると、よくまあ、昔の王族はエチケットのせいで窒息死しなかったものだと、リカルドは思ってしまう。
「これは陛下、突然のお越しで殿下のお支度を整える時間がございませんでした」
早速の嫌味に、リカルドは『こーゆージジイは本当に長生きするもんだ』と、国王らしからぬ事を考えながら、テラスに向かったカウチに寄りかかる着る途中なのか、脱ぐ途中なのか、王妃が見たらイライラしそうな、良く言えば色っぽく着流している、悪く言えばだらしない、超がつくほどラフな格好をしたロベルトにゆっくりと歩み寄った。
しかし『しばらく』と侍従長に遮られ、リカルドはロベルトにそれ以上近寄ることは出来ず、真ん中に侍従長という柱がたった状態で話しをすることになった。
「ロベルト、今日は大切な知らせがあってやってきた」
リカルドの言葉にロベルトが上体を半分ひねり、顔をリカルドの方に向けた。
その敬意を払わない様子に、『王太子が国王に対して払うべき敬意のエチケット一覧』をろくに精査せず、丸ごと廃止にしたことをリカルドは後悔した。なにしろ、自分が王太子時代、ここにいる頑固ジジイに、あーでもない、こーでもないと、ごちゃごちゃ散々に言われた嫌な記憶ばかりで、この際いっそ全部無くしてしまえとばかりに、廃止宣言をしたのだが、王太子のエチケットを廃止しても、侍従長のエチケットを廃止するのを忘れたため、最初に王太子と親子の時間を持とうとした時に、侍従長がニヤリと笑って『陛下は王太子のエチケットは廃止されましたが、侍従および、私、侍従長のエチケットを廃止されませんでしたので、王太子殿下へのご面会は、侍従よりの取り次ぎが必要でございます』と、勝ち誇られたのだった。
本当に、何とかは長生きするもんだとリカルドは再び思いながら、必死にため息を飲み込んだ。
「殿下、国王陛下より、大切なお話があるとの仰せでございます」
バカ丁寧に侍従長がロベルトに向かって国王である父が訪ねてきた用向きを伝えるが、そんなのほんの一メートルちょっとの距離にいるのだから、一々、口添えしなくたってリカルドの声はちゃんと聞こえているはずだ。
「ロベルト、今日は大切な知らせを直接、私の口から伝えたくて出向いてきたぞ」
侍従長にかまわずリカルドが続けると、ロベルトが眉を寄せた。
「お前の妻が正式に決まったぞ!」
『驚け!』とばかりに、大風呂敷を広げてみる。
本当は、ルドルフの返事待ちなのだが、そこは国王、いざとなれば拒否権を発動してどんなお断りの言葉も無効にする事が出来るリカルドだ。
近衛はリカルドの姿を見るなり、最敬礼をしてから、ロベルトの部屋の扉をノックする。すると、扉が開いて王太子付き侍従が姿を現した。
「堅苦しくする必要はない、親子の語らいじゃ」
リカルドが言うと、侍従はリカルドのために扉を開きながら『国王陛下のお出ましでございます』と、中に控える侍従に仰々しく伝える。
扉をくぐり、控える侍従達にリカルドが下がるように手で合図すると、侍従長を残し、全員が部屋から下がっていった。
国王と王太子ともなると、親子二人だけで話しをしようとすると、これがまたスムーズには行かない。
リカルドが国王になってから、不必要に細かい王宮での決まり事やエチケットなる物をできる限り廃止してはみた物の、それでもやはり面倒は残る。特に国王と王太子が二人でとなると、国王付き侍従長を頭とする国王派の侍従と王太子付き侍従長を頭とする王太子派侍従という、バカみたいな縦割り官僚社会のおかげで、色々と厄介な問題がでるので、ここで侍従長を追い払うのは得策ではない。
大体、現行の国王派と王太子派の縦割りの侍従組織は、まだエッセンシュタインが一夫多妻制で、皇后をはじめとして、複数の王妃から複数の王子が産まれ、王太子の座を争い、次期国王の座を争うという、血で血を洗う血族の戦いをしていた数百年前に作られた、それぞれの身を護るための決まり事とエチケットから成り立っており、今の一夫一婦制の平和なエッセンシュタインには全く不要の組織体制なのだが、いざこれを解体するとなると、細々とした数百から数千のルールやエチケットに変更を加える必要があるので、さすがのリカルドも根負けして不便さは残るものの、不都合がない程度までの解体で手を打ったのだった。
そういうわけで、とりあえず侍従長は居ても見えないことにして我慢する。なにしろ、この侍従長はリカルドが王太子時代からの侍従長で、やたらと決まり事やエチケットにうるさいので、下手な戦いを挑めば、歩く規則とエチケットのエンサイクロペディアと呼ばれる、この侍従長に足元をすくわれることは言うまでもない。それを考えると、よくまあ、昔の王族はエチケットのせいで窒息死しなかったものだと、リカルドは思ってしまう。
「これは陛下、突然のお越しで殿下のお支度を整える時間がございませんでした」
早速の嫌味に、リカルドは『こーゆージジイは本当に長生きするもんだ』と、国王らしからぬ事を考えながら、テラスに向かったカウチに寄りかかる着る途中なのか、脱ぐ途中なのか、王妃が見たらイライラしそうな、良く言えば色っぽく着流している、悪く言えばだらしない、超がつくほどラフな格好をしたロベルトにゆっくりと歩み寄った。
しかし『しばらく』と侍従長に遮られ、リカルドはロベルトにそれ以上近寄ることは出来ず、真ん中に侍従長という柱がたった状態で話しをすることになった。
「ロベルト、今日は大切な知らせがあってやってきた」
リカルドの言葉にロベルトが上体を半分ひねり、顔をリカルドの方に向けた。
その敬意を払わない様子に、『王太子が国王に対して払うべき敬意のエチケット一覧』をろくに精査せず、丸ごと廃止にしたことをリカルドは後悔した。なにしろ、自分が王太子時代、ここにいる頑固ジジイに、あーでもない、こーでもないと、ごちゃごちゃ散々に言われた嫌な記憶ばかりで、この際いっそ全部無くしてしまえとばかりに、廃止宣言をしたのだが、王太子のエチケットを廃止しても、侍従長のエチケットを廃止するのを忘れたため、最初に王太子と親子の時間を持とうとした時に、侍従長がニヤリと笑って『陛下は王太子のエチケットは廃止されましたが、侍従および、私、侍従長のエチケットを廃止されませんでしたので、王太子殿下へのご面会は、侍従よりの取り次ぎが必要でございます』と、勝ち誇られたのだった。
本当に、何とかは長生きするもんだとリカルドは再び思いながら、必死にため息を飲み込んだ。
「殿下、国王陛下より、大切なお話があるとの仰せでございます」
バカ丁寧に侍従長がロベルトに向かって国王である父が訪ねてきた用向きを伝えるが、そんなのほんの一メートルちょっとの距離にいるのだから、一々、口添えしなくたってリカルドの声はちゃんと聞こえているはずだ。
「ロベルト、今日は大切な知らせを直接、私の口から伝えたくて出向いてきたぞ」
侍従長にかまわずリカルドが続けると、ロベルトが眉を寄せた。
「お前の妻が正式に決まったぞ!」
『驚け!』とばかりに、大風呂敷を広げてみる。
本当は、ルドルフの返事待ちなのだが、そこは国王、いざとなれば拒否権を発動してどんなお断りの言葉も無効にする事が出来るリカルドだ。