初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
アレクサンドラがザッカローネ公爵家の馬車で屋敷に戻ってきたころには、十年に一度というアリシアとルドルフの天変地異的な夫婦喧嘩が最大火力で吹き荒れているところだった。
ザッカローネ公爵家はアレクサンドラの公式なパトロンであり、アレクサンドラがザッカローネ公爵家の馬車で帰宅することには問題はない、しかし、実際に送り届けてこられたのは、アレクサンドラではあってアレクサンドラではない、アレクシスの姿をしたアレクサンドラだった。
これが令嬢姿のアレクサンドラだったとしても、ライラと言うメイドも連れずに単身独身男性の屋敷を訪れるなどと言う未婚の娘にあるまじき行為を黙って見過ごせることではなかったが、よりにもよって、アレクシス姿アレクサンドラが公爵家の馬車で帰ってきたことは夫婦喧嘩に油を注ぐどころか、ダイナマイトをまとめて投げ込んだような恐ろしい状態になった。
既にジャスティーヌとアリシアとの激戦で激高していたルドルフは、玄関の扉が閉まるや否や、力いっぱいアレクサンドラを張り倒した。
これがドレス姿なら、どれ程に怒っていようとも、平手打ち程度で済んだのだろうが、男性姿のアレクサンドラに、ルドルフは怒りを抑えることが出来なかった。
渾身の一撃を受け、さすがのアレクサンドラも軽く一メートルは吹き飛び、そのまま床に腰をついた。
「何という事を! アレクサンドラは社交界デビューを控えた大切な身なのですよ。顔に痣でも出来たら、どうなさるおつもりなのです!」
アリシアが叫びながらアレクサンドラに抱き着いた。
騒ぎを聞きつけたジャスティーヌが階段を駆け下りると、アレクサンドラを抱きしめてかばうアリシアの前に両手を広げて立ちはだかった。
「お父様、アレクを叩くというなら、私を叩いてください。アレクは自分を犠牲にしてまで私を守ってくれたのです。例え、お父様と言えども、アレクに乱暴を働くことは私が許しません!」
さすがのルドルフも、いつもはお淑やかなジャスティーヌの天地を揺さぶるような剣幕に、振り上げた手を震わせながら下へと下ろした。
本人は婚約を解消するの、修道院へ入るのと言ってはいるが、既に国王陛下から王太子妃確定を告げられているルドルフとしては、例え自分の娘と言えども、未来の王太子妃に対して手を上げることはできなかった。
「女は女同士、きちんと話をまとめなさい。勝手な我儘も、社交界デビューの延期も一切許可するつもりはない」
ルドルフは言い置くと、三人に背を向けて書斎へと帰っていった。
「いったい、どういうことなのアレクサンドラ?」
既に男装を止め、アレクシスは田舎に帰ったと友人達にも告げていたアレクサンドラが男装をしてアントニウスを訪ねていたことに、アリシアは何をどこからどう話してよいのか分からず、思ったままの事をそのまま口にした。
「そんな姿で、あなたはもうアレクサンドラに戻ったはず」
アリシアの問いに答えぬアレクサンドラに代わり、ジャスティーヌが口を開いた。
「お母様、そのことは、どうか今はお尋ねにならないでください」
「でも、未婚の娘がメイドも連れず、このような姿で殿方の家を訪ねたなどと、誰かに知れたら大変なスキャンダルになるのですよ。それこそ、あなたの結婚にも差しさわりが・・・・・・」
「お母様、先ほどお父様にも申し上げましたけど、わたくし結婚は致しません」
ジャスティーヌはきっぱりと言い切った。
「まって、ジャスティーヌ。結婚しないって、どういうこと?」
驚いたアレクサンドラがジャスティーヌに問いかけた。
「アレク、部屋に戻りましょう。そんなところに座っていたら体が冷えてしまうわ」
ジャスティーヌは言うと、アレクサンドラに手を伸ばした。
アレクサンドラは困惑したままアリシアの腕をすり抜けると、ジャスティーヌに導かれるまま階段を上った。
「アレクサンドラ! ジャスティーヌ!」
母の呼ぶ声は聞こえていたが、ジャスティーヌは聞こえぬふりをしてそのまま階段を上り続けた。
☆☆☆
ザッカローネ公爵家はアレクサンドラの公式なパトロンであり、アレクサンドラがザッカローネ公爵家の馬車で帰宅することには問題はない、しかし、実際に送り届けてこられたのは、アレクサンドラではあってアレクサンドラではない、アレクシスの姿をしたアレクサンドラだった。
これが令嬢姿のアレクサンドラだったとしても、ライラと言うメイドも連れずに単身独身男性の屋敷を訪れるなどと言う未婚の娘にあるまじき行為を黙って見過ごせることではなかったが、よりにもよって、アレクシス姿アレクサンドラが公爵家の馬車で帰ってきたことは夫婦喧嘩に油を注ぐどころか、ダイナマイトをまとめて投げ込んだような恐ろしい状態になった。
既にジャスティーヌとアリシアとの激戦で激高していたルドルフは、玄関の扉が閉まるや否や、力いっぱいアレクサンドラを張り倒した。
これがドレス姿なら、どれ程に怒っていようとも、平手打ち程度で済んだのだろうが、男性姿のアレクサンドラに、ルドルフは怒りを抑えることが出来なかった。
渾身の一撃を受け、さすがのアレクサンドラも軽く一メートルは吹き飛び、そのまま床に腰をついた。
「何という事を! アレクサンドラは社交界デビューを控えた大切な身なのですよ。顔に痣でも出来たら、どうなさるおつもりなのです!」
アリシアが叫びながらアレクサンドラに抱き着いた。
騒ぎを聞きつけたジャスティーヌが階段を駆け下りると、アレクサンドラを抱きしめてかばうアリシアの前に両手を広げて立ちはだかった。
「お父様、アレクを叩くというなら、私を叩いてください。アレクは自分を犠牲にしてまで私を守ってくれたのです。例え、お父様と言えども、アレクに乱暴を働くことは私が許しません!」
さすがのルドルフも、いつもはお淑やかなジャスティーヌの天地を揺さぶるような剣幕に、振り上げた手を震わせながら下へと下ろした。
本人は婚約を解消するの、修道院へ入るのと言ってはいるが、既に国王陛下から王太子妃確定を告げられているルドルフとしては、例え自分の娘と言えども、未来の王太子妃に対して手を上げることはできなかった。
「女は女同士、きちんと話をまとめなさい。勝手な我儘も、社交界デビューの延期も一切許可するつもりはない」
ルドルフは言い置くと、三人に背を向けて書斎へと帰っていった。
「いったい、どういうことなのアレクサンドラ?」
既に男装を止め、アレクシスは田舎に帰ったと友人達にも告げていたアレクサンドラが男装をしてアントニウスを訪ねていたことに、アリシアは何をどこからどう話してよいのか分からず、思ったままの事をそのまま口にした。
「そんな姿で、あなたはもうアレクサンドラに戻ったはず」
アリシアの問いに答えぬアレクサンドラに代わり、ジャスティーヌが口を開いた。
「お母様、そのことは、どうか今はお尋ねにならないでください」
「でも、未婚の娘がメイドも連れず、このような姿で殿方の家を訪ねたなどと、誰かに知れたら大変なスキャンダルになるのですよ。それこそ、あなたの結婚にも差しさわりが・・・・・・」
「お母様、先ほどお父様にも申し上げましたけど、わたくし結婚は致しません」
ジャスティーヌはきっぱりと言い切った。
「まって、ジャスティーヌ。結婚しないって、どういうこと?」
驚いたアレクサンドラがジャスティーヌに問いかけた。
「アレク、部屋に戻りましょう。そんなところに座っていたら体が冷えてしまうわ」
ジャスティーヌは言うと、アレクサンドラに手を伸ばした。
アレクサンドラは困惑したままアリシアの腕をすり抜けると、ジャスティーヌに導かれるまま階段を上った。
「アレクサンドラ! ジャスティーヌ!」
母の呼ぶ声は聞こえていたが、ジャスティーヌは聞こえぬふりをしてそのまま階段を上り続けた。
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