初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
久しぶりにエイゼンシュタインの屋敷に戻ってきたマリー・ルイーズは、ミケーレの低調な出迎えに満足したものの、息子のアントニウスが迎えに出てこないことにへそを曲げていた。
「ミケーレ、サロンに」
元の主人であるマリー・ルイーズの命令には逆らえず、ミケーレはマリー・ルイーズに従ってサロンに足を踏み入れた。
「それで、私の放蕩息子が女性をこの屋敷に住まわせているというのは本当なの?」
ストレートな質問に、ミケーレは鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしないように繕うのが限界だった。
「いいえ、そのような事はございません。こちらのお屋敷には、アントニウス様しかお住まいではございません」
「では、どの屋敷にその女性は住んでいるのかしら?」
再びのストレートな問いに、ミケーレは秘密を守れるか、自身がなくなってきたが、それでも主の秘密を軽々しく口にするつもりはなかった。
「奥様、申し訳ございません。私には、何のことか、まったく・・・・・・」
「ミケーレ、あなたが私の放蕩息子の発注したシルクの下着や、肌着、ドレスの請求書に確認のサインを入れたことはわかっているのよ。まさか、あのシルクの下着を着ているのは、私の放蕩息子だなんて嘘はつかないわよね?」
さすがのミケーレも返事に窮し、アントニウスが意中の相手であるアレクサンドラの為にアーチボルト伯爵家を支援していることを話さざるを得ないかとあきらめかけたところに、アントニウスが姿を現した。
「これは、母上。突然のおこしに驚きました。きっと、私の浪費のせいで母上がいらしたのですね」
国を出た時よりも、より男らしくなった息子に、マリー・ルイーズは恋をしたのだなと確信した。
「あの請求書の量には、さすがにお父様もつむじを曲げていらっしゃるわ。どうせ、旅の踊り子か何かに熱を上げているのだろうとね。で、そのお嬢さんはどこにいるのかしら?」
マリー・ルイーズの微笑みながらの直球攻撃に、アントニウスも微笑み返した。
「父上の読みは、外れです。さすがの私も、旅の踊り子に等、心を奪われたりはしませんよ」
「でも、陛下が不思議なことをおっしゃっていらしたわ。ロベルトの婚約が近いしアントニウスの婚約も間もなくだろうと。それは、どういうことかしら?」
叔父の不用意な発言に、アントニウスは余計なことをと思ったが、さすがに相手は一国の国王、心の中でも罵るわけにはいかない。
「母上、私は失恋したというべきでしょう」
アントニウスの言葉に、ミケーレも驚きを隠せなかった。
「ロベルトの婚約者となるジャスティーヌ嬢の事はご存知ですよね?」
「ええ、知っているわ。とても素敵なお嬢さんなのに、お家の台所が苦しくて、いつも不憫な思いをされているのは知っていてよ」
「私の想い人は、その双子の妹である、アレクサンドラ嬢です」
ジャスティーヌの妹が引きこもって屋敷から一歩も出ないことは、社交界でも有名な話だった。
「叔父上が、ロベルトの意思も確認せずに見合いなどと言う大袈裟なことを始めたので、偶然に私もお知り合いになることが出来たのですが、母上ならばご存知の通り、社交界デビューにもいろいろな支度にも、莫大な費用が掛かります。それを私が押しつけですべて差配させていただき、アレクサンドラ嬢の社交界デビューの際のエスコート役を勝ち取ったのです」
「それなのに、あなたが失恋を?」
「アレクサンドラ嬢の好みではなかったのかもしれません。ですが、私も父上の息子ですから、国に帰っても愛を込めた手紙を送り続けるつもりです。いつか、振り向いていただけるかもしれませんから」
アントニウスの説明に、マリー・ルイーズはいつもながら楽天的な従兄の言葉を真に受けた自分がバカだったと、失恋した息子が不憫でならなくなった。
「母上にも、社交界デビューの折にご紹介させていただきます」
アントニウスは言うと、すがすがしい笑みを浮かべてサロンから出て行った。
「ミケーレ、あの子がフラれるなんて、信じられる?」
二人の間に、秘密に関するやり取りがあることを知らないミケーレとしては、ある日気付けば主が恋に落ちていたというのが、一番正しい表現で、一人で盛り上がり、そして、なぜかはわからないが、あの日、突然、伯爵家縁のアレクシスが訪ねてきた日、主は突然帰国することを決意したことは間違いない。
「私には、なんとも」
「ぜひ、お目にかかってみたいものだわ。そのアレクサンドラ嬢に・・・・・・」
母親がしゃしゃり出たところで、話がまとまるわけでないこともマリー・ルイーズにもわかっていたし、実家の台所が火の車という伯爵家では、公爵家の嫡男と釣り合うかと言われれば、非常に苦しい。しかし、双子の姉が甥のロベルトと婚約し、いずれは王太子妃になるとなれば、また話は違ってくる。
「仕方がないので、社交界デビューを待ちましょう」
マリー・ルイーズは言うと、ミケーレに下がるように合図した。
☆☆☆
「ミケーレ、サロンに」
元の主人であるマリー・ルイーズの命令には逆らえず、ミケーレはマリー・ルイーズに従ってサロンに足を踏み入れた。
「それで、私の放蕩息子が女性をこの屋敷に住まわせているというのは本当なの?」
ストレートな質問に、ミケーレは鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしないように繕うのが限界だった。
「いいえ、そのような事はございません。こちらのお屋敷には、アントニウス様しかお住まいではございません」
「では、どの屋敷にその女性は住んでいるのかしら?」
再びのストレートな問いに、ミケーレは秘密を守れるか、自身がなくなってきたが、それでも主の秘密を軽々しく口にするつもりはなかった。
「奥様、申し訳ございません。私には、何のことか、まったく・・・・・・」
「ミケーレ、あなたが私の放蕩息子の発注したシルクの下着や、肌着、ドレスの請求書に確認のサインを入れたことはわかっているのよ。まさか、あのシルクの下着を着ているのは、私の放蕩息子だなんて嘘はつかないわよね?」
さすがのミケーレも返事に窮し、アントニウスが意中の相手であるアレクサンドラの為にアーチボルト伯爵家を支援していることを話さざるを得ないかとあきらめかけたところに、アントニウスが姿を現した。
「これは、母上。突然のおこしに驚きました。きっと、私の浪費のせいで母上がいらしたのですね」
国を出た時よりも、より男らしくなった息子に、マリー・ルイーズは恋をしたのだなと確信した。
「あの請求書の量には、さすがにお父様もつむじを曲げていらっしゃるわ。どうせ、旅の踊り子か何かに熱を上げているのだろうとね。で、そのお嬢さんはどこにいるのかしら?」
マリー・ルイーズの微笑みながらの直球攻撃に、アントニウスも微笑み返した。
「父上の読みは、外れです。さすがの私も、旅の踊り子に等、心を奪われたりはしませんよ」
「でも、陛下が不思議なことをおっしゃっていらしたわ。ロベルトの婚約が近いしアントニウスの婚約も間もなくだろうと。それは、どういうことかしら?」
叔父の不用意な発言に、アントニウスは余計なことをと思ったが、さすがに相手は一国の国王、心の中でも罵るわけにはいかない。
「母上、私は失恋したというべきでしょう」
アントニウスの言葉に、ミケーレも驚きを隠せなかった。
「ロベルトの婚約者となるジャスティーヌ嬢の事はご存知ですよね?」
「ええ、知っているわ。とても素敵なお嬢さんなのに、お家の台所が苦しくて、いつも不憫な思いをされているのは知っていてよ」
「私の想い人は、その双子の妹である、アレクサンドラ嬢です」
ジャスティーヌの妹が引きこもって屋敷から一歩も出ないことは、社交界でも有名な話だった。
「叔父上が、ロベルトの意思も確認せずに見合いなどと言う大袈裟なことを始めたので、偶然に私もお知り合いになることが出来たのですが、母上ならばご存知の通り、社交界デビューにもいろいろな支度にも、莫大な費用が掛かります。それを私が押しつけですべて差配させていただき、アレクサンドラ嬢の社交界デビューの際のエスコート役を勝ち取ったのです」
「それなのに、あなたが失恋を?」
「アレクサンドラ嬢の好みではなかったのかもしれません。ですが、私も父上の息子ですから、国に帰っても愛を込めた手紙を送り続けるつもりです。いつか、振り向いていただけるかもしれませんから」
アントニウスの説明に、マリー・ルイーズはいつもながら楽天的な従兄の言葉を真に受けた自分がバカだったと、失恋した息子が不憫でならなくなった。
「母上にも、社交界デビューの折にご紹介させていただきます」
アントニウスは言うと、すがすがしい笑みを浮かべてサロンから出て行った。
「ミケーレ、あの子がフラれるなんて、信じられる?」
二人の間に、秘密に関するやり取りがあることを知らないミケーレとしては、ある日気付けば主が恋に落ちていたというのが、一番正しい表現で、一人で盛り上がり、そして、なぜかはわからないが、あの日、突然、伯爵家縁のアレクシスが訪ねてきた日、主は突然帰国することを決意したことは間違いない。
「私には、なんとも」
「ぜひ、お目にかかってみたいものだわ。そのアレクサンドラ嬢に・・・・・・」
母親がしゃしゃり出たところで、話がまとまるわけでないこともマリー・ルイーズにもわかっていたし、実家の台所が火の車という伯爵家では、公爵家の嫡男と釣り合うかと言われれば、非常に苦しい。しかし、双子の姉が甥のロベルトと婚約し、いずれは王太子妃になるとなれば、また話は違ってくる。
「仕方がないので、社交界デビューを待ちましょう」
マリー・ルイーズは言うと、ミケーレに下がるように合図した。
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