初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
王家主催の大舞踏会の支度は、昼間の陛下への謁見の準備は何だったのだろうかというくらい、更に豪華に念入りなものだった。
ロベルト王太子が髪飾りから靴まですべてジャスティーヌの為に用意させたというジャスティーヌと、これまた同じくアントニウスがすべてを新調させたというアレクサンドラの美しさの競い合いのようでもあった。
さすがに、湯水のごとくお金を使ったとはいえ、さすがに一刻の王子には叶わない事はアントニウスも認めざるを得ず、夜会で一番華やかで豪華なのはジャスティーヌ、そして、その次を行くのがアレクサンドラというのは、出席するまでもなく明らかな程の力の入れようだった。
「行きますよ」
ライラの掛け声に合わせ、ジャスティーヌは大きく息を吸うと、ベッドの天蓋を支える支柱にしがみつき、ライラがコルセットの紐を締めるタイミングに合わせて息を吐いて行った。
肋骨が軋むような感覚を覚えながらも、全て息を吐きだし終わるまで、ライラが渾身の力を入れて紐を閉めていく。
目が周りそうな締め付けが終わると、今度はパニエがウェストに回され、これもひもで絞められる。そして、最後に、ドレスという流れになるのだが、パニエを巻いたところでジャスティーヌはいったん休憩に入り、次はアレクサンドラの番だ。
「行きますよ」
同じ掛け声に従い、ジャスティーヌと同じようにアレクサンドラも吸った空気を吐きながら、ライラが締め上げるコルセットに必死に耐えた。
肋骨が軋み、内臓が飛び出してきそうなところでやっと締め付けられるのが終わり、息も絶え絶えのアレクサンドラの腰にパニエが紐で止められた。
「ジャスティーヌお嬢様、いかがでらっしゃいますか?」
ライラはコルセットの締め具合を確認しながら、ジャスティーヌから問題ないという言葉を聞くと、用意してあった金糸銀糸の縁取りに本物の花のようにリアルな刺繍と絹のレースがふんだんに使われたドレスを着せていった。
髪の毛のセットは終わっており、メイクも口紅を残すだけの状態なので、ドレスを着終われば、紅を刺し、結い上げてある髪に飾りを刺していき、首にはネックレース、耳にはイヤリング、そして、手首にブレスレットを付ければ、ジャスティーヌの支度は万全だ。
ジャスティーヌの支度が進んでいくのを見ながら、アレクサンドラはまだ伸びきっていない髪の毛が一目に着かないように、ライラが工夫してアップにしてくれた髪形を乱さないように、できるだけ静かに呼吸をした。
まるで魔法のように、あっという間にジャスティーヌの支度が終わり、ライラは念を押すようにアレクサンドラの方を見て問いかけてきた。
正直、あと少しでいいから、コルセットの紐を緩めてほしい。でも、このサイズまで絞る計画で仕立てたドレスに収まるためには、コルセットを緩めるわけにはいかない。
「ここまで来たら、女は度胸よ!」
自分で言いながら、支離滅裂かもと思いながら、用意されたドレスに袖を通す。
今咲き誇る花をモチーフにしているジャスティーヌのドレスに対して、ある意味少し地味ともいえる、開きかけたつぼみというモチーフのアレクサンドラのドレスは、実際には花の刺繍はなく、薄い桃色のシルクと薄絹を何枚も重ねて、幾重にも重なる花弁が開こうとしている雰囲気を出している。
だから、髪飾りは花のつぼみと葉をモチーフにしたもの、ネックレースは葉の部分にエメラルドを埋め込んだ月桂樹の冠をデフォルメしたネックレース。イヤリングは大きな膨らんだつぼみのシャクヤクのようで、ブレスレットは敢えてしないことにしている。
大人っぽく、咲きほこる花のような濃いめの赤に近い紅を入れたジャスティーヌと、ピンクの艶のある紅を入れたアレクサンドラは、互いに相手を見ながら、イメージが逆ではないかと顔を見合わせた。
「なんか、ジャスティーヌのドレス、すごい華やかで、性格がはっきりしていますって感じ」
「アレクのドレスは、ふんわりして、大人しくて穏やかな感じがするわ」
「ジャスティーヌが赤い紅を入れるなんて、初めてじゃない?」
「アレクのピンクの紅は、すごくかわいい感じがするわ」
互いに相手を評しながら、それぞれの相手が自分に対して思っているイメージ、もしくは、求めている姿がこれなのかもしれないと、改めて思わせられた瞬間だった。
「やっぱり、王太子妃になるには、それくらいの強さが必要なんだよね、きっと。」
「私に務まるのかしら・・・・・・」
ジャスティーヌが気弱なセリフを口にする。
「それを言ったら、私の方が、こんな可愛くて、ふんわりした可愛いレディなんて、らしくなさすぎて、こんな可愛らしいレディをアントニウス様が私に求めているなんて、信じられないわ・・・・・・」
困惑したアレクサンドラの胸は不安でいっぱいになった。それに、うっかりとはいえ、まるでアントニウスが自分がアレクシスだったことを知っているかのような発言をしてしまったことに、アレクサンドラは秘密がジャスティーヌの知るところになるのではとドキドキしたが、さすがのジャスティーヌも今はそこまでの余裕はないようだった。
「お嬢様方、無駄口を叩いているような、そんな余裕はございませんよ。お急ぎになられないと、お迎えが参りますよ」
ライラの言葉に背中を押され、二人は靴を履くと部屋を後にした。
ロベルト王太子が髪飾りから靴まですべてジャスティーヌの為に用意させたというジャスティーヌと、これまた同じくアントニウスがすべてを新調させたというアレクサンドラの美しさの競い合いのようでもあった。
さすがに、湯水のごとくお金を使ったとはいえ、さすがに一刻の王子には叶わない事はアントニウスも認めざるを得ず、夜会で一番華やかで豪華なのはジャスティーヌ、そして、その次を行くのがアレクサンドラというのは、出席するまでもなく明らかな程の力の入れようだった。
「行きますよ」
ライラの掛け声に合わせ、ジャスティーヌは大きく息を吸うと、ベッドの天蓋を支える支柱にしがみつき、ライラがコルセットの紐を締めるタイミングに合わせて息を吐いて行った。
肋骨が軋むような感覚を覚えながらも、全て息を吐きだし終わるまで、ライラが渾身の力を入れて紐を閉めていく。
目が周りそうな締め付けが終わると、今度はパニエがウェストに回され、これもひもで絞められる。そして、最後に、ドレスという流れになるのだが、パニエを巻いたところでジャスティーヌはいったん休憩に入り、次はアレクサンドラの番だ。
「行きますよ」
同じ掛け声に従い、ジャスティーヌと同じようにアレクサンドラも吸った空気を吐きながら、ライラが締め上げるコルセットに必死に耐えた。
肋骨が軋み、内臓が飛び出してきそうなところでやっと締め付けられるのが終わり、息も絶え絶えのアレクサンドラの腰にパニエが紐で止められた。
「ジャスティーヌお嬢様、いかがでらっしゃいますか?」
ライラはコルセットの締め具合を確認しながら、ジャスティーヌから問題ないという言葉を聞くと、用意してあった金糸銀糸の縁取りに本物の花のようにリアルな刺繍と絹のレースがふんだんに使われたドレスを着せていった。
髪の毛のセットは終わっており、メイクも口紅を残すだけの状態なので、ドレスを着終われば、紅を刺し、結い上げてある髪に飾りを刺していき、首にはネックレース、耳にはイヤリング、そして、手首にブレスレットを付ければ、ジャスティーヌの支度は万全だ。
ジャスティーヌの支度が進んでいくのを見ながら、アレクサンドラはまだ伸びきっていない髪の毛が一目に着かないように、ライラが工夫してアップにしてくれた髪形を乱さないように、できるだけ静かに呼吸をした。
まるで魔法のように、あっという間にジャスティーヌの支度が終わり、ライラは念を押すようにアレクサンドラの方を見て問いかけてきた。
正直、あと少しでいいから、コルセットの紐を緩めてほしい。でも、このサイズまで絞る計画で仕立てたドレスに収まるためには、コルセットを緩めるわけにはいかない。
「ここまで来たら、女は度胸よ!」
自分で言いながら、支離滅裂かもと思いながら、用意されたドレスに袖を通す。
今咲き誇る花をモチーフにしているジャスティーヌのドレスに対して、ある意味少し地味ともいえる、開きかけたつぼみというモチーフのアレクサンドラのドレスは、実際には花の刺繍はなく、薄い桃色のシルクと薄絹を何枚も重ねて、幾重にも重なる花弁が開こうとしている雰囲気を出している。
だから、髪飾りは花のつぼみと葉をモチーフにしたもの、ネックレースは葉の部分にエメラルドを埋め込んだ月桂樹の冠をデフォルメしたネックレース。イヤリングは大きな膨らんだつぼみのシャクヤクのようで、ブレスレットは敢えてしないことにしている。
大人っぽく、咲きほこる花のような濃いめの赤に近い紅を入れたジャスティーヌと、ピンクの艶のある紅を入れたアレクサンドラは、互いに相手を見ながら、イメージが逆ではないかと顔を見合わせた。
「なんか、ジャスティーヌのドレス、すごい華やかで、性格がはっきりしていますって感じ」
「アレクのドレスは、ふんわりして、大人しくて穏やかな感じがするわ」
「ジャスティーヌが赤い紅を入れるなんて、初めてじゃない?」
「アレクのピンクの紅は、すごくかわいい感じがするわ」
互いに相手を評しながら、それぞれの相手が自分に対して思っているイメージ、もしくは、求めている姿がこれなのかもしれないと、改めて思わせられた瞬間だった。
「やっぱり、王太子妃になるには、それくらいの強さが必要なんだよね、きっと。」
「私に務まるのかしら・・・・・・」
ジャスティーヌが気弱なセリフを口にする。
「それを言ったら、私の方が、こんな可愛くて、ふんわりした可愛いレディなんて、らしくなさすぎて、こんな可愛らしいレディをアントニウス様が私に求めているなんて、信じられないわ・・・・・・」
困惑したアレクサンドラの胸は不安でいっぱいになった。それに、うっかりとはいえ、まるでアントニウスが自分がアレクシスだったことを知っているかのような発言をしてしまったことに、アレクサンドラは秘密がジャスティーヌの知るところになるのではとドキドキしたが、さすがのジャスティーヌも今はそこまでの余裕はないようだった。
「お嬢様方、無駄口を叩いているような、そんな余裕はございませんよ。お急ぎになられないと、お迎えが参りますよ」
ライラの言葉に背中を押され、二人は靴を履くと部屋を後にした。