初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
 アントニウスの口利きもあり、再びジャスティーヌと手紙を交わすことができるようになったロベルトは、どうしてもジャスティーヌの声を聴き、その温もりを感じたくて堪らなくなっていた。
 うるさい王太子付き侍従長を追い払い、更に徹底した人払いをしたロベルトは、緊急の用事と執務室に呼びつけておいた王太子付き近衛隊長に歩み寄った。
「命令だ、今すぐ制服を脱げ!」
 若くして王太子付き近衛隊の隊長の座を射止めた幸運な大尉は、ロベルトとほとんど歳の変わらない伯爵家の嫡男だった。
 ロベルトの言葉を聞いた大尉は、何よりも自分の貞操と、婚約を交わしたばかりの愛しい婚約者との未来に想いを馳せた。
「忘れていた。先日婚約したのだったな。祝いの言葉を伝える暇がなかった・・・・・・」
 ロベルトの言葉に、大尉はゴクリと音を立てて唾を飲み込んだ。
「末長い、二人の幸せを祈っている。・・・・・・何をしている。早く制服を脱げ!」
 自分の婚約を祝福しながら、その幸せを打ち壊すような要求をする王太子に、大尉は困惑の表情を浮かべてぎゅっと制服を握り締めた。
「で、殿下、殿下のお気持ちはありがたいのですが、御存じの通り、私、婚約いたしましたばかりで、その・・・・・・。どうか、殿下の夜伽の栄誉は他の者に・・・・・・」
 さっさと重いローブを外し、服を脱ぎ始めていたロベルトは、大尉の言葉に口をあんぐりと開けた。
「馬鹿者! 男などに興味はない!」
 ロベルトは叫ぶと自分のローブを大尉に投げつけた。
「いいか、よく聞け。お前の制服を着て私は王太子付き近衛隊長として王宮を出る。私が戻るまで、お前はこの部屋を一歩も出てはならぬ。いいな、誰もいれてはならぬ。わかったら早く制服を貸せ! これは命令だ!」
 大尉は混乱した頭のまま、ロベルトの勅命を受け、夢遊病患者のように制服を脱いでロベルトに差し出した。
 茫然としたままの大尉の前で近衛の制服を身に着けたロベルトは、最後に輝く金の星を掲げた近衛の帽子を目深にかぶり、大尉一人を残して『失礼いたしました』と戸口で一言残し、執務室から姿を消した。
 残された大尉は、しばらくの間、これが夢なのか現実なのかも定かでない精神状態で、執務室に半裸で立ち尽くした。

☆☆☆

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