初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
 一人になったアレクサンドラは、何度もアントニウスからの手紙を読み返し、それからゆっくりとペンを取った。
 インクボトルにペン先をつけ、書き始めては手を止め、紙を変えて再び書き始めては、手を止めた。
 言葉にならない想いがあふれ、アレクサンドラは何を書いていいのかわからず、しばらくレターパッドを見つめてため息をついた。
 どんなことも、厳しい任務に命を捧げるアントニウスの妨げになってはいけないと思うと、したためようとするそばから不安になり、アレクサンドラは筆を止めざるを得なくなった。
 戦場にいるアントニウスに書くべき言葉を探し、自分の事ではなく、近々発表されるジャスティーヌとロベルト王太子の婚約の発表について書き始めた。
 本当なら、婚約の発表とともに、王宮に移り住み、王太子妃としての行儀見習いを始めるはずのジャスティーヌは、アレクサンドラの事を心配して行儀見習いの期間を二倍に延ばし、王宮で暮らしての行儀見習いではなく、基本は通いでの行儀見習いを行い、王宮での晩餐会に王太子の婚約者として出席する場合は、王宮に留まるが、それ以外は基本通いでの見習をロベルトに承諾させた。
 大臣たちは、ロベルトを骨抜きにして好き勝手するとジャスティーヌの行動に否定的だったが、それでもロベルトがアレクサンドラを想うジャスティーヌを尊重するのをリカルド三世が黙認したので、すぐに大臣たちは王族からのバッシングを恐れて口を噤んだ。
 当然、そんな細かいことまでは書くつもりはなかったが、それでも、アントニウスが心配していたジャスティーヌとロベルトが無事婚約すること、そして、二人がとても幸せであることをアレクサンドラはアントニウス宛ての手紙にしたためた。
 それから、アントニウスの健康と無事を祈っていることをしたためた。
 戦地に届けられることを考えると、手紙が検められることもあるので、アレクサンドラは自分の個人的な想いや話を書くことは控えた。ただ、ひたすら、イルデランザが勝利すること、そして、アントニウスが無事であること、それだけを手紙に込めた。
 書き終え、手紙の宛先を記したアレクサンドラは、封をする前にもう一度手紙を読み直した。そして、最後に『アレクシスは元気でおります』と書き加えた。
 もしかしたら、手紙を読んでいるかもしれない誰かが、アレクサンドラがアレクシスの動向に振れないことをいぶかしむかもしれないと思っての事だったが、それを受けとるアントニウスはどのように思うだろうかと、アレクサンドラは少し悩みながら手紙に封をした。

☆☆☆

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