初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
ピエートル、フランツ、アレクサンドラの三人を見つけたジャスティーヌは、ロベルトだけに聞こえるように、フランツがアレクサンドラにしつこくしており、アレクサンドラが困っていると耳打ちした。
「アーチボルト伯爵、並びに、伯爵夫人、それに、アレクサンドラ嬢、今宵の夜会、お楽しみいただけておりますか? 本当は、王宮での夜会でと思ったのですが、ここは、私とジャスティーヌが出会い、幼いころに婚約を交わした思い出の館。今宵の夜会にはぴったりと思いましたが、やはり、少し地味すぎたでしょうか?」
ロベルトに声をかけられ、アレクサンドラはフランツに背を向けたままロベルトの方に向き直ると、優雅にお辞儀をした。
「我が従兄、アントニウスの不在の間に、悪い虫がつかないようにと、マリー・ルイーズ叔母上が気を揉むので、私も少し不安に思っていたのですが、そちらは?」
アレクサンドラの背後に立つピエートルに目を止めたロベルトの言葉に、アレクサンドラはすぐに返事をした。
「こちらは、バウムガルト男爵家嫡男のピエートル殿でいらっしゃいます。アレクシスの親しいご友人でいらしたので、何度もお名前を窺っておりましたので、アレクシスの話を少し・・・・・・」
「そうでしたか、実際、アレクシスが居なくなり、夜会もつならなくなりました。彼がいたころの華やかな社交会をあなたにもお見せしたかった。ですが、アントニウスの身になれば、いまの静かな社交界の方が百倍も安心できるでしょう」
楽し気にアレクシスの事を話すロベルトからは、アレクサンドラが以前感じたような悪い印象は一切感じられなかった。
「とはいえ、ジャスティーヌのそばにも寄らせぬ彼の鉄壁のガードは素晴らしかった。もし、彼が居たら、アントニウスも、もっと安心して戦地に赴くことができたでしょう」
完全に無視され、声すらかけてもらえぬフランツは、怒りの表情を必死に隠しながらその場を去って行った。
「そうだ、アレクサンドラ嬢、一曲、私と踊っていただけませんか?」
予期せぬ展開にアレクサンドラが驚くと、ロベルトはジャスティーヌの耳元で『私がアレクサンドラ嬢と踊れば、他の貴族達もアレクサンドラ嬢を誘いにくくなる』とを囁くと、ジャスティーヌも笑顔で頷いた。
それを見たアレクサンドラは差し伸べられた手を取り、ロベルトにエスコートされ広間の中心へと進んだ。
「相手が私では御不満でしょうが、アントニウスが戻るまで、我慢してください」
「そんな、殿下のお相手を不満だなんて・・・・・・」
アレクサンドラが慌てて言い繕った。
「あなたとは、遠くない日に兄と妹になる間です。気兼ねなど必要はありません。アントニウスと踊るあなたは光り輝いて、とても幸せそうでした。そして、アントニウスも。それを見た後では、あなたが私のダンスに満足するか、とても不安になります」
控えめなロベルトの言葉は、ダンスにおいても控えめだった。
アントニウスとのダンスを迫力のある、強いリードのダンスと評するなら、ロベルトとのダンスは軽やかで、優しく、舞うようなダンスだった。
一曲だけで広間のセンターを他のカップルたちに明け渡したロベルトとアレクサンドラにジャスティーヌが嬉しそうに歩み寄ってきた。
「アレク、とても素敵だったわ」
瓜二つのジャスティーヌの言葉に、父の伯爵が咳払いした。
これほど外見がよく似た双子もないと、両親が思っているにもかかわらず、本人たちはあまり似ていないと思っているのだから、不思議なものだと、常々アーチボルト伯爵は思っていた。
傍から見たら、およそ自画自賛のようなジャスティーヌとアレクサンドラのやり取りを幸せそうにロベルトは見つめていた。そんなアレクサンドラの背後には、なんとかアレクサンドラとお近づきになりたいという独身貴族の子弟、しかも、ピエートルを除けば全員が伯爵家以上という状態だった。
(・・・・・・・・予想していたとはいえ、さすがにアレクサンドラ狙いの面々が多いな・・・・・・・・)
ロベルトとしては、なんとかアントニウスが戻るまで、アレクサンドラに悪い虫を近づけたくないというのが本心だが、冷静に王太子という立場を考えると、自国の侯爵家や伯爵家の子弟達を十羽一括りにして『悪い虫』と評することは、正しくないと思われた。
王太子妃となり、いずれ王妃となるジャスティーヌの妹であるアレクサンドラが将来のロベルトの重臣となる人物、リカルド三世で言うならば、アーチボルト伯爵のような存在となる者に嫁いでくれれば、ジャスティーヌも寂しがらなくて済むのだがと思う反面、アレクサンドラに想いを残し、国のために戦地に赴いたアントニウスの事を思えば、やはりアントニウスが戻ってきてから、公平にアレクサントラには相手を選んでもらいたいという思いが強かった。
「どちらのダンスも素晴らしかったよ、ジャスティーヌ」
ロベルトが褒めると、ジャスティーヌは笑顔を浮かべ、アレクサンドラは知らず赤面した。
「そんなことは・・・・・・。私のダンスはジャスティーヌのように華麗ではございませんわ」
アレクサンドラが言うと、ロベルトは『そんなことはありませんよ』と優しく答えた。
アレクサントラに対するロベルトの態度は、以前、アレクシスとして接していた時の物とは全く違っていた。
「ね、殿下も折っちゃった通り、アレクのダンスは素敵だったわ」
ジャスティーヌはアレクサンドラの手をぎゅっと握って言った。
「ありがとうございます。アントニウス様としか踊ったことがございませんでしたので、不慣れで・・・・・・」
アレクサンドラが言うと、ロベルトは優しい瞳でアレクサンドラの事を見つめた。
「この度の戦は、長引くかもしれませんが、必ずアントニウスはあなたの元に戻ってきます。あれでも、大公の甥、間違っても最前線に送られるようなことはないでしょう」
優しいロベルトの言葉に、アレクサンドラは驚くと同時に頭を横に振った。
「アントニウス様は、前線に赴かれていると、そうお手紙にございました」
「なんだって?」
驚くロベルトに、ジャスティーヌが縋りつくようにして顔色を蒼くした。
「申し訳ございません。おめでたい席に、私の配慮が足りず、申し訳ございませんでした」
アレクサンドラは言うと、申し訳なくなり広間を足早に後にした。
「アーチボルト伯爵、並びに、伯爵夫人、それに、アレクサンドラ嬢、今宵の夜会、お楽しみいただけておりますか? 本当は、王宮での夜会でと思ったのですが、ここは、私とジャスティーヌが出会い、幼いころに婚約を交わした思い出の館。今宵の夜会にはぴったりと思いましたが、やはり、少し地味すぎたでしょうか?」
ロベルトに声をかけられ、アレクサンドラはフランツに背を向けたままロベルトの方に向き直ると、優雅にお辞儀をした。
「我が従兄、アントニウスの不在の間に、悪い虫がつかないようにと、マリー・ルイーズ叔母上が気を揉むので、私も少し不安に思っていたのですが、そちらは?」
アレクサンドラの背後に立つピエートルに目を止めたロベルトの言葉に、アレクサンドラはすぐに返事をした。
「こちらは、バウムガルト男爵家嫡男のピエートル殿でいらっしゃいます。アレクシスの親しいご友人でいらしたので、何度もお名前を窺っておりましたので、アレクシスの話を少し・・・・・・」
「そうでしたか、実際、アレクシスが居なくなり、夜会もつならなくなりました。彼がいたころの華やかな社交会をあなたにもお見せしたかった。ですが、アントニウスの身になれば、いまの静かな社交界の方が百倍も安心できるでしょう」
楽し気にアレクシスの事を話すロベルトからは、アレクサンドラが以前感じたような悪い印象は一切感じられなかった。
「とはいえ、ジャスティーヌのそばにも寄らせぬ彼の鉄壁のガードは素晴らしかった。もし、彼が居たら、アントニウスも、もっと安心して戦地に赴くことができたでしょう」
完全に無視され、声すらかけてもらえぬフランツは、怒りの表情を必死に隠しながらその場を去って行った。
「そうだ、アレクサンドラ嬢、一曲、私と踊っていただけませんか?」
予期せぬ展開にアレクサンドラが驚くと、ロベルトはジャスティーヌの耳元で『私がアレクサンドラ嬢と踊れば、他の貴族達もアレクサンドラ嬢を誘いにくくなる』とを囁くと、ジャスティーヌも笑顔で頷いた。
それを見たアレクサンドラは差し伸べられた手を取り、ロベルトにエスコートされ広間の中心へと進んだ。
「相手が私では御不満でしょうが、アントニウスが戻るまで、我慢してください」
「そんな、殿下のお相手を不満だなんて・・・・・・」
アレクサンドラが慌てて言い繕った。
「あなたとは、遠くない日に兄と妹になる間です。気兼ねなど必要はありません。アントニウスと踊るあなたは光り輝いて、とても幸せそうでした。そして、アントニウスも。それを見た後では、あなたが私のダンスに満足するか、とても不安になります」
控えめなロベルトの言葉は、ダンスにおいても控えめだった。
アントニウスとのダンスを迫力のある、強いリードのダンスと評するなら、ロベルトとのダンスは軽やかで、優しく、舞うようなダンスだった。
一曲だけで広間のセンターを他のカップルたちに明け渡したロベルトとアレクサンドラにジャスティーヌが嬉しそうに歩み寄ってきた。
「アレク、とても素敵だったわ」
瓜二つのジャスティーヌの言葉に、父の伯爵が咳払いした。
これほど外見がよく似た双子もないと、両親が思っているにもかかわらず、本人たちはあまり似ていないと思っているのだから、不思議なものだと、常々アーチボルト伯爵は思っていた。
傍から見たら、およそ自画自賛のようなジャスティーヌとアレクサンドラのやり取りを幸せそうにロベルトは見つめていた。そんなアレクサンドラの背後には、なんとかアレクサンドラとお近づきになりたいという独身貴族の子弟、しかも、ピエートルを除けば全員が伯爵家以上という状態だった。
(・・・・・・・・予想していたとはいえ、さすがにアレクサンドラ狙いの面々が多いな・・・・・・・・)
ロベルトとしては、なんとかアントニウスが戻るまで、アレクサンドラに悪い虫を近づけたくないというのが本心だが、冷静に王太子という立場を考えると、自国の侯爵家や伯爵家の子弟達を十羽一括りにして『悪い虫』と評することは、正しくないと思われた。
王太子妃となり、いずれ王妃となるジャスティーヌの妹であるアレクサンドラが将来のロベルトの重臣となる人物、リカルド三世で言うならば、アーチボルト伯爵のような存在となる者に嫁いでくれれば、ジャスティーヌも寂しがらなくて済むのだがと思う反面、アレクサンドラに想いを残し、国のために戦地に赴いたアントニウスの事を思えば、やはりアントニウスが戻ってきてから、公平にアレクサントラには相手を選んでもらいたいという思いが強かった。
「どちらのダンスも素晴らしかったよ、ジャスティーヌ」
ロベルトが褒めると、ジャスティーヌは笑顔を浮かべ、アレクサンドラは知らず赤面した。
「そんなことは・・・・・・。私のダンスはジャスティーヌのように華麗ではございませんわ」
アレクサンドラが言うと、ロベルトは『そんなことはありませんよ』と優しく答えた。
アレクサントラに対するロベルトの態度は、以前、アレクシスとして接していた時の物とは全く違っていた。
「ね、殿下も折っちゃった通り、アレクのダンスは素敵だったわ」
ジャスティーヌはアレクサンドラの手をぎゅっと握って言った。
「ありがとうございます。アントニウス様としか踊ったことがございませんでしたので、不慣れで・・・・・・」
アレクサンドラが言うと、ロベルトは優しい瞳でアレクサンドラの事を見つめた。
「この度の戦は、長引くかもしれませんが、必ずアントニウスはあなたの元に戻ってきます。あれでも、大公の甥、間違っても最前線に送られるようなことはないでしょう」
優しいロベルトの言葉に、アレクサンドラは驚くと同時に頭を横に振った。
「アントニウス様は、前線に赴かれていると、そうお手紙にございました」
「なんだって?」
驚くロベルトに、ジャスティーヌが縋りつくようにして顔色を蒼くした。
「申し訳ございません。おめでたい席に、私の配慮が足りず、申し訳ございませんでした」
アレクサンドラは言うと、申し訳なくなり広間を足早に後にした。