初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
意識の戻らないアントニウスの傍にヴァリシキが付き添い、手厚い看病を続けているのを半ば強引に時間を作って連日ヤニスは見舞っていた。
混乱に乗じて自殺を図ろうとした狙撃の犯人は捕らえたが、作戦の指揮をしていたアントニウスが陣内で狙撃を受けたことは、イルデランザ軍を怒りに駆り立てていた。
狙撃犯は何も話さず、ポレモスが放った刺客なのか、それとも、ヤニスを狙ったものなのかもはっきりしていなかった。
もしも、ポレモスが狙うとしたら、この軍を率いているサマラス少将を狙うというのが効果的な作戦で、一将校であるヤニスを狙う意味は分からず、逆に、作戦参謀であるアントニウスを狙ったと言う方がしっくりくる。それでも、あの時、確かにアントニウスはヤニスを守って被弾した。その事を考えると、ヤニスはアントニウスに申し訳なく、そして、アントニウスを待っているであろう相手の女性に申し訳なく、『戦争だから』という一言で片づけることができなかった。
既にアントニウスが負傷したことは本部に知らせが届いているだろうが、相手の女性のところまで知らせか届くかどうかはわからない。悩んだ末、ヤニスはアントニウスの執事であるミケーレに手紙を書くことにした。
アントニウスが自分を守り被弾したこと、いずれ首都に搬送されるであろうこと、まだ意識が戻らないこと、アントニウスの状態をアントニウスの想い人である女性に伝えてほしいこと、そして、心からの謝罪をヤニスは書き綴った。
「大佐!」
ヤニスに気付いたヴァリシキが直立不動の体勢で敬礼したので、ヤニスは手で楽にするようにと無言のまま指示した。
「カストリア軍曹、頼みがある」
ヤニスは言うと、手紙を取り出してヴァシリキに手渡した。
「こちらは?」
「アントニウスの執事、ミケーレに送ってもらいたい。差出人は私でも、君でも構わない。ただ、間違いなくこの手紙がミケーレの手に届くように、アントニウスが送っていた手紙と同じように送ってもらいたい」
ヴァシリキにはヤニスの意図は掴めなかったが、上官の指示には従うのが軍隊の常だったので、反駁することなく手紙を受け取った。
「かしこまりました。では、明日、ミケーレ殿にお送りいたします」
「頼んだぞ」
「はっ!」
ヴァシリキは再びピシリと敬礼した。
「アントニウスの様子は?」
「未だ、昏睡状態でございます」
傷からの昏睡なのか、それとも、緊急手術による昏睡なのか、未だ意識の戻らないアントニウスの休むテントに入ると、ヤニスは深々と頭を下げた。
「すまなかったアントニウス。私が撃たれるべきだった。君は、大公閣下の甥ともいえる存在、私の指導生だというのに。私を守って被弾するなど、あってはいけないことだ・・・・・・。本当ならば、この私が身を呈してでもお守りするところだったのに・・・・・・。頼む、目覚めてくれアントニウス、そうでないと、私はどのようにして償ってよいのか、もう大公にも公爵にも合わせる顔がない・・・・・・。・・・・・・憶えているか? 他の上級貴族の子弟が私の出自を馬鹿にしたとき、君は、いや、あなたは憤り、私が軽んじられることのないように計らってくださった。あなたのおかげで、私に続く者も出自に左右されず昇進することができるようになった。みな、いずれあなたがシザリオン様の片腕としてこの国を支えていくことを望んでいるのです。あなたの尊い命は、このようなところで失われてよい命ではありません・・・・・・」
しばらく、返事をすることのないアントニウスに話しかけてから、ヤニスはテントを後にした。
☆☆☆
混乱に乗じて自殺を図ろうとした狙撃の犯人は捕らえたが、作戦の指揮をしていたアントニウスが陣内で狙撃を受けたことは、イルデランザ軍を怒りに駆り立てていた。
狙撃犯は何も話さず、ポレモスが放った刺客なのか、それとも、ヤニスを狙ったものなのかもはっきりしていなかった。
もしも、ポレモスが狙うとしたら、この軍を率いているサマラス少将を狙うというのが効果的な作戦で、一将校であるヤニスを狙う意味は分からず、逆に、作戦参謀であるアントニウスを狙ったと言う方がしっくりくる。それでも、あの時、確かにアントニウスはヤニスを守って被弾した。その事を考えると、ヤニスはアントニウスに申し訳なく、そして、アントニウスを待っているであろう相手の女性に申し訳なく、『戦争だから』という一言で片づけることができなかった。
既にアントニウスが負傷したことは本部に知らせが届いているだろうが、相手の女性のところまで知らせか届くかどうかはわからない。悩んだ末、ヤニスはアントニウスの執事であるミケーレに手紙を書くことにした。
アントニウスが自分を守り被弾したこと、いずれ首都に搬送されるであろうこと、まだ意識が戻らないこと、アントニウスの状態をアントニウスの想い人である女性に伝えてほしいこと、そして、心からの謝罪をヤニスは書き綴った。
「大佐!」
ヤニスに気付いたヴァリシキが直立不動の体勢で敬礼したので、ヤニスは手で楽にするようにと無言のまま指示した。
「カストリア軍曹、頼みがある」
ヤニスは言うと、手紙を取り出してヴァシリキに手渡した。
「こちらは?」
「アントニウスの執事、ミケーレに送ってもらいたい。差出人は私でも、君でも構わない。ただ、間違いなくこの手紙がミケーレの手に届くように、アントニウスが送っていた手紙と同じように送ってもらいたい」
ヴァシリキにはヤニスの意図は掴めなかったが、上官の指示には従うのが軍隊の常だったので、反駁することなく手紙を受け取った。
「かしこまりました。では、明日、ミケーレ殿にお送りいたします」
「頼んだぞ」
「はっ!」
ヴァシリキは再びピシリと敬礼した。
「アントニウスの様子は?」
「未だ、昏睡状態でございます」
傷からの昏睡なのか、それとも、緊急手術による昏睡なのか、未だ意識の戻らないアントニウスの休むテントに入ると、ヤニスは深々と頭を下げた。
「すまなかったアントニウス。私が撃たれるべきだった。君は、大公閣下の甥ともいえる存在、私の指導生だというのに。私を守って被弾するなど、あってはいけないことだ・・・・・・。本当ならば、この私が身を呈してでもお守りするところだったのに・・・・・・。頼む、目覚めてくれアントニウス、そうでないと、私はどのようにして償ってよいのか、もう大公にも公爵にも合わせる顔がない・・・・・・。・・・・・・憶えているか? 他の上級貴族の子弟が私の出自を馬鹿にしたとき、君は、いや、あなたは憤り、私が軽んじられることのないように計らってくださった。あなたのおかげで、私に続く者も出自に左右されず昇進することができるようになった。みな、いずれあなたがシザリオン様の片腕としてこの国を支えていくことを望んでいるのです。あなたの尊い命は、このようなところで失われてよい命ではありません・・・・・・」
しばらく、返事をすることのないアントニウスに話しかけてから、ヤニスはテントを後にした。
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