初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
 王宮からの使者というだけでも珍しいのに、更に国王からの勅使と言われ、アーチボルト伯爵家では、使者をもてなすため、上を下をの大騒動となった。
 大慌てで設えた張りぼてのようなもてなしだったが、何とか伯爵家の体面を保って勅使を迎えられるだけの準備を整えたというのに、勅使はせっかくのもてなしを受けることなく『アーチボルト伯爵に置かれましては、直ちに登城されたしとの陛下よりのお言葉でございます』と言うなり、勅使はおよそ普段着に近い身なりのままの伯爵を罪人を引っ立てるかのように無理やり馬車に詰め込み、王宮へと連れ去っていった。

「お父さまが一体何をなさったというのでしょう」
 途方に暮れるジャスティーヌに、アレクシスもとい、アレクサンドラが『さあ、先日のブリッジで勝ちすぎたんじゃない?』と、何事もなかったかのように答えた。
「アレクサンドラ、いいかげん年頃の娘に戻ったらどうなの?」
 ジャスティーヌの言葉に、アレクサンドラは一向に興味を示さなかった。
「そんなのつまらないよ、ジャスティーヌ。僕はね、ジャスティーヌにつきまとう、邪魔な男を追うのが楽しいんだ」
 アレクサンドラは、すっかりアレクシスになりきって答えた。
「おかげで、私は社交界で行き遅れと言われてますけどね」
 ジャスティーヌは、誰に言うでもなく、ぽつりと呟いた。

☆☆☆

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