初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
マリー・ルイーズが書斎に入ると、アラミスは苛立ちを抑えられないように、部屋の中を行ったり来たりしていた。
「どうなさいましたの?」
「マリー・ルイーズ! 何を考えている。今は戦争中、しかも、アントニウスが・・・・・・」
「ですから、アレクサンドラさんをお連れしたのです」
「どういう意味だ?」
公爵は訳も分からず、困惑した表情をうかべた。
「あなたも鈍い方ですのね。アレクサンドラさんが、アントニウスの愛しの君です」
かつてマリー・ルイーズに宛てた手紙に『愛しの君』と記したことのあったアラミスは、驚いたように目を見張った。
「女遊びが過ぎていたわけではないのか?」
「違います。正式にプロポーズしていたのですわ」
「私は許した覚えはないぞ!」
公爵は大公位継承権を持つアントニウスの結婚は、より慎重にならなければならないと常々思っていたので、声を荒げた。
「相手として不足はございません。姉のジャスティーヌさんは未来の王太子妃、いずれは王妃になるのですよ。エイゼンシュタインの。その妹が、将来のザッカローネ公爵の妻で不足がありますの?」
言われてみれば、確かに相手としては問題ない。実際、エイゼンシュタインとの関係をより強固にと考えていたからこそ、アントニウスがエイゼンシュタインに花嫁探しに出かけるのを良しとしてきた公爵だった。
「しかし、アントニウスは・・・・・・」
公爵は再び口ごもった。
「アレクサンドラさんは、行儀見習いとして滞在しますが、実質、アントニウスの看病にいらしたのです」
「まさか・・・・・・。寡婦となる覚悟があると言うのか?」
公爵は驚いたように問いかけた。
「はい。伯爵から、万が一の時は、寡婦としてアレクサンドラさんは所領内の修道院に入れると。決して、他の者には嫁がせないと、お言葉を戴きました」
若いアレクサンドラがそこまで決心し、それを父親である伯爵が認めたとあれば、公爵には反対する理由はなかった。
「アーチボルト伯爵家は、殿下との成婚の前に叙勲され公爵家に格上げされるのではないかと城では囁かれている」
「確かに、アーチボルト伯爵はお従兄様の親友にもあたる方。今まで伯爵位で冷遇されていたことの方が不思議なくらいですから、それもあり得るでしょう。そうすれば、アレクサンドラさんはよりアントニウスの妻にふさわしくなるというものです」
マリー・ルイーズの言葉に伯爵は頷いた。
「よかろう。滞在を許そう」
「ありがとうございます」
マリー・ルイーズは笑顔で答えた。
「ところで、あなた。アントニウスの事でお話があります」
突然言葉遣いが変わったマリー・ルイーズに、アラミスは顔をひきつらせた。
「マリー・ルイーズ・・・・・・」
「どういうことですの! なぜ危険な前線にアントニウスを送ったりなさったのです!」
マリー・ルイーズの怒りは収まらず、しばらくの間、家令も従僕も、執事も、誰も公爵の書斎には近づくことができなかった。
☆☆☆
「どうなさいましたの?」
「マリー・ルイーズ! 何を考えている。今は戦争中、しかも、アントニウスが・・・・・・」
「ですから、アレクサンドラさんをお連れしたのです」
「どういう意味だ?」
公爵は訳も分からず、困惑した表情をうかべた。
「あなたも鈍い方ですのね。アレクサンドラさんが、アントニウスの愛しの君です」
かつてマリー・ルイーズに宛てた手紙に『愛しの君』と記したことのあったアラミスは、驚いたように目を見張った。
「女遊びが過ぎていたわけではないのか?」
「違います。正式にプロポーズしていたのですわ」
「私は許した覚えはないぞ!」
公爵は大公位継承権を持つアントニウスの結婚は、より慎重にならなければならないと常々思っていたので、声を荒げた。
「相手として不足はございません。姉のジャスティーヌさんは未来の王太子妃、いずれは王妃になるのですよ。エイゼンシュタインの。その妹が、将来のザッカローネ公爵の妻で不足がありますの?」
言われてみれば、確かに相手としては問題ない。実際、エイゼンシュタインとの関係をより強固にと考えていたからこそ、アントニウスがエイゼンシュタインに花嫁探しに出かけるのを良しとしてきた公爵だった。
「しかし、アントニウスは・・・・・・」
公爵は再び口ごもった。
「アレクサンドラさんは、行儀見習いとして滞在しますが、実質、アントニウスの看病にいらしたのです」
「まさか・・・・・・。寡婦となる覚悟があると言うのか?」
公爵は驚いたように問いかけた。
「はい。伯爵から、万が一の時は、寡婦としてアレクサンドラさんは所領内の修道院に入れると。決して、他の者には嫁がせないと、お言葉を戴きました」
若いアレクサンドラがそこまで決心し、それを父親である伯爵が認めたとあれば、公爵には反対する理由はなかった。
「アーチボルト伯爵家は、殿下との成婚の前に叙勲され公爵家に格上げされるのではないかと城では囁かれている」
「確かに、アーチボルト伯爵はお従兄様の親友にもあたる方。今まで伯爵位で冷遇されていたことの方が不思議なくらいですから、それもあり得るでしょう。そうすれば、アレクサンドラさんはよりアントニウスの妻にふさわしくなるというものです」
マリー・ルイーズの言葉に伯爵は頷いた。
「よかろう。滞在を許そう」
「ありがとうございます」
マリー・ルイーズは笑顔で答えた。
「ところで、あなた。アントニウスの事でお話があります」
突然言葉遣いが変わったマリー・ルイーズに、アラミスは顔をひきつらせた。
「マリー・ルイーズ・・・・・・」
「どういうことですの! なぜ危険な前線にアントニウスを送ったりなさったのです!」
マリー・ルイーズの怒りは収まらず、しばらくの間、家令も従僕も、執事も、誰も公爵の書斎には近づくことができなかった。
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