初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
アントニウスは漆黒の闇に包まれた世界を歩いていた。足取りは重く、時々、おぼつかなくなりそうな、深く濃い闇の中だった。
止まない雨はなく、開けない夜はないはずなのに、いくら進んでも明かりの気配も人の気配もなく、何度となく失望し、絶望して歩くのを止めそうになった。
アントニウスが最後に覚えているのは、ヤニスに向けて発射された一発の凶弾だった。
無我夢中でヤニスを突き飛ばし、自分が盾になったように記憶しているが、それ以上の事は思い出せなかった。
(・・・・・・・・いったい、ここはどこで、あれからどれくらいの時間が経ったのか・・・・・・・・)
明かり一つないという事は通常では考えられず、必ずかすかな光は存在するものだった。
(・・・・・・・・これほどまでに人の気配がないという事は、戦況が変わっての移動の際に置き去りにされたのか? そうでないとしたら・・・・・・・・)
アントニウスは必死に考えを巡らせた。
(・・・・・・・・置き去りなんてありえない。他の誰が忘れても、ヤニスとヴァシリキが俺を置いて行くはずはない。例え怪我をして部隊の足手まといとなって後方支援部隊に引き渡すにしても、従卒のヴァシリキが側にいるはずだ。怪我をした俺を一人置き去りにするはずがない・・・・・・・・)
そこまで考え、アントニウスは黙した。
(・・・・・・・・怪我?・・・・・・・・)
慌てて体に触ってみるが、どこか実感がなく、まるで夢の中で触っているような非現実的な感じがした。触っているのに、触っていないような、そんなあやふやな感じにアントニウスはいら立ちを覚えた。
(・・・・・・・・どうなっているんだ? 俺は、俺はまさか、死んだのか? だとしても、そうだとして、この闇の世界はなんだ? 俺は地獄に落とされるような大罪を犯した覚えはないぞ! 神の名に、母の名に誓ったことを破ったことはない。あの晩だって、あれほど近くに、あれほど無防備なアレクサンドラが居たのに、触れもしなかった・・・・・・。そうだ、俺は、アレクサンドラの元に戻らなくてはいけない。例え、俺の愛を受け入れてもらえないとしても、もう一度、きちんと想いを伝え、そして、叶わないならば、潔く諦め、せめて友人の一人として、これから嫁ぎ、幸せになっていく姿を見守りたいと、そう男らしく告げて彼女の心を解放してあげなくてはいけないんだ!・・・・・・・・)
アントニウスはアレクサンドラの元に強く戻りたいと、そう心の中で思った。
アレクサンドラの事を想うと、少し辺りの闇が薄らいでいくように感じた。
(・・・・・・・・アレクサンドラ、あなたに逢いたい。あなたを近くに感じたい・・・・・・・・)
アントニウスは父よりも、母よりも、誰よりもアレクサンドラの事を強く想った。
その時、アントニウスは温かい何かが自分の手に触れるのを感じた。
(・・・・・・・・この暖かさは? 誰かが俺の手に触れている?・・・・・・・・)
アントニウスは自分の手に振れている温かいものに触れようと、必死に闇の中に手を伸ばしたが、アントニウスの手は空を掴むばかりで、温かさの源に触れることはできなかった。
深い失望に、大きなため息が漏れた。
(・・・・・・・・出口を探さなくては。俺はこんなところで時間を無駄にしているわけにはいかない、一刻も早くを終わらせ、アレクサンドラの元に戻らなくてはいけない・・・・・・・・)
アントニウスは心に固く誓うと、しっかりとした足取りで闇の中を出口を探して歩き始めた。
☆☆☆
止まない雨はなく、開けない夜はないはずなのに、いくら進んでも明かりの気配も人の気配もなく、何度となく失望し、絶望して歩くのを止めそうになった。
アントニウスが最後に覚えているのは、ヤニスに向けて発射された一発の凶弾だった。
無我夢中でヤニスを突き飛ばし、自分が盾になったように記憶しているが、それ以上の事は思い出せなかった。
(・・・・・・・・いったい、ここはどこで、あれからどれくらいの時間が経ったのか・・・・・・・・)
明かり一つないという事は通常では考えられず、必ずかすかな光は存在するものだった。
(・・・・・・・・これほどまでに人の気配がないという事は、戦況が変わっての移動の際に置き去りにされたのか? そうでないとしたら・・・・・・・・)
アントニウスは必死に考えを巡らせた。
(・・・・・・・・置き去りなんてありえない。他の誰が忘れても、ヤニスとヴァシリキが俺を置いて行くはずはない。例え怪我をして部隊の足手まといとなって後方支援部隊に引き渡すにしても、従卒のヴァシリキが側にいるはずだ。怪我をした俺を一人置き去りにするはずがない・・・・・・・・)
そこまで考え、アントニウスは黙した。
(・・・・・・・・怪我?・・・・・・・・)
慌てて体に触ってみるが、どこか実感がなく、まるで夢の中で触っているような非現実的な感じがした。触っているのに、触っていないような、そんなあやふやな感じにアントニウスはいら立ちを覚えた。
(・・・・・・・・どうなっているんだ? 俺は、俺はまさか、死んだのか? だとしても、そうだとして、この闇の世界はなんだ? 俺は地獄に落とされるような大罪を犯した覚えはないぞ! 神の名に、母の名に誓ったことを破ったことはない。あの晩だって、あれほど近くに、あれほど無防備なアレクサンドラが居たのに、触れもしなかった・・・・・・。そうだ、俺は、アレクサンドラの元に戻らなくてはいけない。例え、俺の愛を受け入れてもらえないとしても、もう一度、きちんと想いを伝え、そして、叶わないならば、潔く諦め、せめて友人の一人として、これから嫁ぎ、幸せになっていく姿を見守りたいと、そう男らしく告げて彼女の心を解放してあげなくてはいけないんだ!・・・・・・・・)
アントニウスはアレクサンドラの元に強く戻りたいと、そう心の中で思った。
アレクサンドラの事を想うと、少し辺りの闇が薄らいでいくように感じた。
(・・・・・・・・アレクサンドラ、あなたに逢いたい。あなたを近くに感じたい・・・・・・・・)
アントニウスは父よりも、母よりも、誰よりもアレクサンドラの事を強く想った。
その時、アントニウスは温かい何かが自分の手に触れるのを感じた。
(・・・・・・・・この暖かさは? 誰かが俺の手に触れている?・・・・・・・・)
アントニウスは自分の手に振れている温かいものに触れようと、必死に闇の中に手を伸ばしたが、アントニウスの手は空を掴むばかりで、温かさの源に触れることはできなかった。
深い失望に、大きなため息が漏れた。
(・・・・・・・・出口を探さなくては。俺はこんなところで時間を無駄にしているわけにはいかない、一刻も早くを終わらせ、アレクサンドラの元に戻らなくてはいけない・・・・・・・・)
アントニウスは心に固く誓うと、しっかりとした足取りで闇の中を出口を探して歩き始めた。
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