初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
 たいして四阿に長居をしたつもりはなかったのに、広間に戻ってみるとそこにアレクサンドラの姿はなく、ロベルトを見つけた公爵夫人が足早に歩み寄り、アレクサンドラは人当たりして気分が悪くなり、別室で横になって休んでいると、またアレクシスに頼まれ、伯爵邸に迎えの馬車をよこすように使いを送ったと教えてくれた。
 アレクサンドラが休んでいるという部屋の扉をノックすると、『どうぞ』というアレクシスの声が返ってきた。
「殿下、申し訳ありません。やはり、今まで人の多い場所に出たことのなかったアレクサンドラですから、ワルツを二曲踊っただけで人当たりしてしまったようで・・・・・・。公爵夫人にお願いして迎えの馬車を手配いたしましたので、今宵は屋敷までお送りいただく必要はございません。アーチボルト伯爵に代わり、このアレクシスが今宵の非礼をお詫び申し上げます」
 アレクシスらしからぬ丁重な物言いと深々と下げられた頭に、ロベルトは追撃をかける気をそがれ、なんとかもう一度アレクサンドラと言葉を交わしたいと寝台の近くに歩み寄ろうとした。しかし、アレクシスが前に立ちはだかり両手を広げた。
「殿下、申し訳ございませんが、アレクサンドラは横になっております故、どうか今宵はこれで」
 未婚の女性の寝台に、親族でも婚約者でもない男が近づくのは確かに、芳しくない噂の種になる。いくら、二人きりではないとは言え、逆にアレクシス公認で二人が交際を始めたなどという噂が立っては元も子もない。
「わかった。では、今宵はここで失礼する」
 ロベルトは言うと、仕方なく部屋を後にした。


 広間に戻っても、同伴者であるアレクサンドラが突然倒れたという話題ばかりが耳に触り、ロベルトはアーチボルト伯爵家からの迎えの馬車でアレクサンドラが帰るのを見送った後、自分も早々に公爵家を後にした。

☆☆☆

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