初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
「アントニウス様、私はここにおります。ずっと、アントニウス様のお傍に・・・・・・」
アレクサンドラはアントニウスの耳元で囁いた。
毎日繰り返していることだが、そうして手をぎゅっと握っていたら、いつかアントニウスが手を握り返してくれると、アレクサンドラは強く信じていた。
まして、アントニウスの傷は回復してきているのに、アントニウスの意識が戻らないのは、医師にも理由がわからないと言われると、自分以外にアントニウスをこの世とあの世の境から引き戻せる人間はいない気がしていた。
ライラの咳払いが聞こえ、アレクサンドラは慌ててアントニウスから体を離した。
「お嬢様、いくらアントニウス様に意識がないとはいえ、未婚のレディがこうして男性の部屋で看病をしていること自体、人にしれれば悪い噂が立つ可能性があるのでございますよ」
お目付け役としてアレクサンドラに付いて来たライラとしては、自分の監督下で間違いが起ってはいけないと、アレクサンドラが不用意にアントニウスの体に触れたり、汗をぬぐったり、着替えの手伝いをしようとするたびにイエローカードやレッドカードを出していた。
当然、着替えの手伝いはレッドカードで、直ちに退場で、隣の自室に閉じ込められてしまうし、汗をぬぐおうとベッドに反身を乗せればすぐにイエローカードでお小言が飛んできた。
アントニウスが帰宅して以来、というよりも、ザッカローネ公爵家に到着いて以来、まともに行儀見習いらしいことを何もせず、アントニウスの部屋にこもっているアレクサンドラに使用人達は興味津々で、なんとか事情を聞き出そうと、ソフィアの陥落を試みる者、ライラにカマをかける者も少なくなかった。
使用人の間で、アレクサンドラの事を『アントニウスの押しかけ嫁ではないか』という思惑が流れるに至り、仕方なくマリー・ルイーズが家令のクレメンティに事情を話し、アレクサンドラがアントニウスの想いの君であり、アントニウスの怪我を知り、一目も憚らず、マリー・ルイーズと共にイルデランザまでやってきたこと。それでも、アントニウスが心変わりしているかもしれないので、アントニウスが目覚め、その意思を確認するまでは行儀見習いとしていることを説明した。また、両家の婚約は成っていないが、二人の間では婚約は成ったともいえるので、アントニウスにもしもの事があれば、アレクサンドラは二夫に嫁がずの意思を固めており、そのまま寡婦として修道院に入る覚悟である事を説明した。
家令からどのように説明があったのかはわからないが、アレクサンドラとライラの周りの使用人達の態度が少し変わり、興味本位から、本当の親切心に変わっていった。
「アントニウス様、どうか目を醒ましてください。私、エイゼンシュタインから、はるばるアントニウス様にお目にかかるために参ったのですよ。これでは、私ばかりが話していて、寂しいですわ」
アレクサンドラは言うと、ライラに見とがめられるとすぐにイエローカードになりそうな、布団の中で握っている手に力を込めた。
「お嬢様、少しお休みください。お嬢様も少しは外の空気を吸って、太陽の光に当たりませんと、お嬢様までご病気になってしまいます」
ソフィアに言われ、アレクサンドラはライラを連れて屋敷の庭にリフレッシュに出ることにした。
☆☆☆
アレクサンドラはアントニウスの耳元で囁いた。
毎日繰り返していることだが、そうして手をぎゅっと握っていたら、いつかアントニウスが手を握り返してくれると、アレクサンドラは強く信じていた。
まして、アントニウスの傷は回復してきているのに、アントニウスの意識が戻らないのは、医師にも理由がわからないと言われると、自分以外にアントニウスをこの世とあの世の境から引き戻せる人間はいない気がしていた。
ライラの咳払いが聞こえ、アレクサンドラは慌ててアントニウスから体を離した。
「お嬢様、いくらアントニウス様に意識がないとはいえ、未婚のレディがこうして男性の部屋で看病をしていること自体、人にしれれば悪い噂が立つ可能性があるのでございますよ」
お目付け役としてアレクサンドラに付いて来たライラとしては、自分の監督下で間違いが起ってはいけないと、アレクサンドラが不用意にアントニウスの体に触れたり、汗をぬぐったり、着替えの手伝いをしようとするたびにイエローカードやレッドカードを出していた。
当然、着替えの手伝いはレッドカードで、直ちに退場で、隣の自室に閉じ込められてしまうし、汗をぬぐおうとベッドに反身を乗せればすぐにイエローカードでお小言が飛んできた。
アントニウスが帰宅して以来、というよりも、ザッカローネ公爵家に到着いて以来、まともに行儀見習いらしいことを何もせず、アントニウスの部屋にこもっているアレクサンドラに使用人達は興味津々で、なんとか事情を聞き出そうと、ソフィアの陥落を試みる者、ライラにカマをかける者も少なくなかった。
使用人の間で、アレクサンドラの事を『アントニウスの押しかけ嫁ではないか』という思惑が流れるに至り、仕方なくマリー・ルイーズが家令のクレメンティに事情を話し、アレクサンドラがアントニウスの想いの君であり、アントニウスの怪我を知り、一目も憚らず、マリー・ルイーズと共にイルデランザまでやってきたこと。それでも、アントニウスが心変わりしているかもしれないので、アントニウスが目覚め、その意思を確認するまでは行儀見習いとしていることを説明した。また、両家の婚約は成っていないが、二人の間では婚約は成ったともいえるので、アントニウスにもしもの事があれば、アレクサンドラは二夫に嫁がずの意思を固めており、そのまま寡婦として修道院に入る覚悟である事を説明した。
家令からどのように説明があったのかはわからないが、アレクサンドラとライラの周りの使用人達の態度が少し変わり、興味本位から、本当の親切心に変わっていった。
「アントニウス様、どうか目を醒ましてください。私、エイゼンシュタインから、はるばるアントニウス様にお目にかかるために参ったのですよ。これでは、私ばかりが話していて、寂しいですわ」
アレクサンドラは言うと、ライラに見とがめられるとすぐにイエローカードになりそうな、布団の中で握っている手に力を込めた。
「お嬢様、少しお休みください。お嬢様も少しは外の空気を吸って、太陽の光に当たりませんと、お嬢様までご病気になってしまいます」
ソフィアに言われ、アレクサンドラはライラを連れて屋敷の庭にリフレッシュに出ることにした。
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