初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
「お父様、なんとおっしゃいました?」
 ルドルフが屋敷に変えると、出発を待つばかりに用意万端整えたジャスティーヌの荷物が所狭しと玄関ホールに並べられていた。
 そこで事の顛末を早口に説明したルドルフに、鋭い瞳のジャスティーヌが問い返した。
「だから、公爵に叙爵される」
「私はそんなことを望んではおりません」
 いつものジャスティーヌからは想像できないくらい、ジャスティーヌは頑なだった。
「この悪意のある噂を流したものは、既にわかっている」
 ルドルフの言葉にジャスティーヌが驚きの表情を見せた。
「誰ですの?」
 ここで隠したところで、一両日中には、蟄居しているバルザック侯爵邸に陛下の勅使が訪れ、侯爵の爵位を没収され、男爵位が下賜されること、ローゼンクロイツ伯爵位とその所領が没収され、さらに、バルザック侯爵領の半分以上が没収されることが公になる。
「黒幕は、バルザック侯爵だ」
 ルドルフは仕方なく、断言した。
「お父様は、どうしてご存じなのですか?」
 驚きを隠せないジャスティーヌをルドルフは冷たくいなした。
「それは、お前の知る必要のないこと。陛下は全てお見通しであられる」
「殿下はなんと?」
「私が公爵に叙爵されるのは、お前が殿下の妻となるからだ。侯爵位でないのは、アレクサンドラがザッカローネ公爵家に嫁ぐ可能性を考えての事だ。殿下が国王になられる頃には、アントニウス様が皇嗣になられる可能性もあるからな」
「それで、著しく名誉を傷つけられた私は、修道院に入るお許しはいただけますの?」
「許しは戴けない。その代わり、陛下は今回の事を王室侮辱罪、王太子侮辱罪としてとらえていらっしゃる。わかったら、はやく荷物を解いて玄関を片付けなさい」
 ルドルフは言うと、ジャスティーヌに反駁を許さず、自分の書斎へと歩いて行った。
 父の命令は絶対であるし、陛下の命令も絶対。ジャスティーヌは出家することを諦めると、メイドたちに命じて荷物を部屋に運ばせた。

☆☆☆

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